ドッチボール・前編


05


「今日の体育は、体育館でやるぞー」


HR終了後、隣のクラスの担任である男子の体育担当の辺見が3年A組の扉からクラスへ呼びかけた。どうやら、今日は雨のため、体育の授業を校庭から体育館で行うことに変更したようだ。


「辺見せんせー、女子はー?」
「日野先生が今日はお休みだから、女子も体育館だ」
「えー、男女混合ー?」
「やだー」
「いいじゃん一緒にやろうぜ」
「やだよー」


女子もそうなるのだろうか、と声をかけると、どうやら男女混合授業になるようだ。
男子と女子では力や体力などの差があることから、女子は嫌がっているようだが、一部の男子は嬉しそうである。



「まあ今日は我慢しろよー。その代わり、今日の授業はドッチボールにするから!ゲームなら楽しいだろ!」
「えええ!」
「もっとやだよ!!」
「痛いじゃん!」
「ドッチボールかよー、だるー」
「じゃあ1試合だけ!」
「..それなら」
「しゃーないなー」


ゲーム形式であれば楽しいであろうと考えていた辺見はドッチボールを選択したが、間違っていたようだ。すごい勢いで嫌がる生徒達に負け、1試合のみと約束をした。
そもそも中学3年生にもなって男女混合でドッチボールなんて。男子のボールなんて取れるわけがないし、女子のボールに当たる男子もそんなにいないだろう。当たると痛いし。
生徒達が嫌がるのも尤もであった。



「じゃ、じゃあ遅れないように来いよー」


そう言い残すと、辺見は足早に教室から去った。今日はお昼休みの1つ前、4時間目が体育だ。
止む気配のない雨を眺め、生徒達はため息を吐きながら1時間目の準備を始めた。



***


キーンコーンカーンコーン、と4時間目の始業のチャイムが鳴り響いた。
男女別に身長順で整列をし、座って各々おしゃべりをしていたが、がらがらと重たい体育館の扉が開く音で口を噤む。



「お、整列してるなー。じゃまず点呼を取るぞー。跡部」
「はい」
「伊賀」
「はーい」



辺見は3年A組の名簿を開くと名前を呼んでいく。
今日は24名全員体育の授業に出席しており、見学者もいないようだ。



「よし。じゃあ、まずはラジオ体操しようか。運動活動委員、前へ出て。ラジオ体操の後はストレッチまでしっかりね。怪我をしないように」



3年A組の運動活動委員である寺田と濱が前へ出る。2人はみんなのお手本をするようだ。寺田はサッカー部に所属している少しおちゃらけた男子で、濱はバレー部に所属して青春を送っている女子だ。運動部に所属しているだけあって、2人のストレッチは非常に柔軟性に優れている。真似をしようとしたのか、いたたた..とあちこちで声が漏れる。
2人に習ってラジオ体操とストレッチを行うと、生徒達の後ろではりきってラジオ体操をしていた辺見が、近くにいる忍足と富永にボールが入ったカゴを取りに行くよう指示をした。



「今日はドッチボールをやるのは授業時間残り20分前から!それまでは各々ドッチボールで使う球でキャッチボールをしてくれ。ドッチボールで少しでも球を取れるよう練習しよう!私語もキャッチボールを疎かにしないならいいぞー」



じゃあ、2人1組に分かれてボールを持っていくようにと指示をだすと、生徒達は各々移動を始めた。


***


バァン、という大きい音や、ぽよん、という音が方々から聞こえる。


『わ、と。近衛ちゃんボール投げるの上手いねー』
「そう?」
『だってすっごく取りやすい』
「ありがと!でも横でやってる跡部くんと忍足には負けるわ...」
『あの2人は別格でしょ..』


横からどしん、と重い音が聞こえる。授業のキャッチボールですら手を抜かないのか、跡部忍足は本気のキャッチボールだ。


「ちょお、跡部痛いんやけど」
「あーん?何言ってやがる。これぐらいなんともねぇだろ」
「いや、もうちょい緩めへん?」
「俺は何事にも手を抜かねぇ」
「あー..」

「跡部くんとペアじゃなくて良かったって、今心の底から思ったわ」
『ほんと跡部ってばかだよね』
「あーん!?おい聞こえてるぞ、俺様のどこがばかだっていうんだ」
『そういうところがだよー』
「苗字さん、言うてもわからんって」
「あーん?」

『あ!ところでさー、今日ジブリの日だよね!』


跡部には何を言っても無駄だと悟った苗字は、うるさくなる前に話を変えることにした。今日は金曜日。今週の金曜ロードショーから3週連続でジブリだ。


「えーと、今週がトトロで?」
「来週が紅の豚だっけ!」
『で、3週目が..ラピュタ?私ラピュタめっちゃすきー!バルス!』
「目がぁ、目があぁあ」
「ちょ、忍足うますぎ!」
「持ちネタやねん」
『まじで!』



あはは、と楽しく3人が会話をする中、静かな男が1人。



「ジブリって、なんだ」
「え」


空気が凍った気がした。



『跡部、ジブリ知らないの?』
「そのジブリってのはなんなんだ」
「まじで知らないんだ!!」
「あーん?」
「跡部ジブリ知らないってまじ?」
「さすが跡部サマって感じ?」



寺田と上森が話に入ってくる。ジブリを知らない跡部が面白くて仕方が無いようだ。



『ジブリってのはねー、みんなの故郷だよ!』
「苗字...!お前わかってんな!!」
『あれは日本人の心だよね!!』
「そう、なくてはならないもんなんだよな!」

「いや、言い過ぎじゃね」
「いや..でも放映される度に15%以上の視聴率を獲得するなんてさ...心の故郷って言っても過言ではないのかも!」
「確かに、なんや懐かしい感じがして何回見てもまた見たくなるもんなぁ」
「まじか..まぁわからなくはねーけど」

「ふん..ジブリとやらは日本人になくてはならない存在なんだな」


苗字、寺田がジブリについて語り出す。そんな2人を見て上森が静かにつっこみを入れるが、近衛、忍足までもが2人に同意をし、上森もまぁ確かに..と唸る。
そんな様子を黙っていた跡部の出した結論に、寺田と苗字は満足そうに頷いた。



長すぎて意図せず前後編に...


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