通学路


08


みなさまお久しぶりです、家庭科部の伊賀です!覚えてるかなー、覚えてない人は時間がある時にでも3話を読んできてね!(時間が無い人は読まなくて大丈夫だよ!暇で仕方ない時に読んでね!)
私は今、「俺女の子の足とかそういうの興味ないんだよね!」って爽やかな笑顔を浮かべた忍足が標準語で話し出すぐらい恐ろしく不安なことに遭遇しています...あ、やっぱり忍足のが怖いかも...まあそれは置いといて。昨日ちょっと夜遅くまで氷帝カーニバル用の衣装作ってたら寝るの遅くなっちゃって、寝坊しちゃったんだよね。でも、いつもより15分ぐらい遅いだけで、遅刻する時間でもないはずなのに...なぜか人っ子1人通学路にいません。もう、不安で不安で!!!え?なんで寝坊した時に限ってこんな人いないの?遅刻?遅刻じゃないよね?今日早集まりとか聞いてないよね?私だけ除け者にされてるとかじゃないよね??時間見間違えてるとかじゃないよね???
あーもう、不安だよーー!!


ちら、と時計に目をやる。何度確認しても針は8と3を指している。遅刻ではないはずだ。それなのに、この通学路は、学生が1人もいない。それどころか、おうちで料理をしているような美味しそうな匂いもしなければ、お掃除を始めているような音もせず、ゴミ出しをしている近所のおばちゃんも、通勤途中のサラリーマンも1人もいない。まるでこの世界にたった1人になったかのような錯覚を覚える。
取り残されてしまったんだろうか。寝不足のせいか、悪い方へ悪い方へと考えてしまう。
神様仏様!どうか私に救いの手を...あああとついでに跡部様!いつも俺様の美技に酔いなとかだっせぇとか思っててごめんなさいもう反省したから助けてください!!


両手を胸の前でしかと握り、念じるように祈る。5分にも30分にも感じるほどそうしていただろうか(実際には1分にも満たなかったが)ふ、と顔をあげてきょろきょろと周りを見回す。...誰もいない。こんなに長い間ここに立ち尽くしているのに誰も通らないなんて、どういうことなんだろう?不安や焦りが募る。
ここでこうしていても遅刻してしまうだけでどうにもならない。はぁ、と大きなため息を着くと、学校へ小さな1歩を踏み出した。


『そこ行くお嬢さん』
「なにかお困りごとですか?」
「そないに不安な顔してたら、悪い狼に捕まんで??」


1歩踏み出した、その瞬間。後ろから声がかかった。反射的に振り返る。


「苗字ちゃん!忍足!諏佐ァ!!!」


そこにはにこにこと、いやにやにやと笑みを浮かべる苗字、忍足、諏佐がいた。


「もう!びっくりした!」
「いやーごめんごめん」
「諏佐さんと今季アニメは何がいいかとか、今のおすすめ漫画の話ししてたんやけど」
「電柱に隠れてる苗字ちゃん見つけちゃって」
「怪しすぎるやろ!てなって声かけてんけどな」
「そしたら、『伊賀ちゃんが可愛すぎる!』とか言って」
『だってほんとに可愛かった!なんかびくびくしてきょろきょろしてて、小動物かよ!って』
「小動物ってキャラじゃないのにね」
「諏佐さんそれは酷いて。」
『あれはまさしく小動物だったよ!!』
「伊賀がー?」
『そう!』
「ないない」
「まぁ伊賀さんにぽろっと毒吐かれたことは数えきれんな..」
「『それは忍足が悪い』」
「2人そろって辛辣!」


軽いテンポで話す3人を見ていると、さっきまでの不安が飛んでいったようにすっかり晴れて、笑いがこみあげてくる。


「あはは!3人ともなにそれ漫才?」
「ちゃうわ!」
『2人がねー』
「それも違うから!大体、伊賀が挙動不審なのが悪い」
『またまたーそんなこと言って、伊賀ちゃんのこと心配してたんでしょー?』
「はぁ!?私が伊賀氏のこと心配するとか草生えるんですけど!勘違いしないでよねー」
「ツンデレおいしい」
「忍足黙って」
「すまん」


なんだかいつもの調子の3人を見ているとどんどん自分のテンションも上がり、元気になった気がする。ありがとう、なんて心の中で言いながら3人の楽しい会話に交じる。


「で、今季のおすすめアニメはなんなの?」
「あ!伊賀にも語る!絶対見るべし!」
「なかなかおもろそうやで」
『私も見てみよっかな』
「ふふふ、沼に引き込んであげよう..」
「諏佐怖い」
「忍足は足踏み入れたから」
「まだ見てへん」


楽しい通学路。やっぱりにぎやかな方がいい。あんな、世界に取り残されてしまったような絶望感、味わいたくない。
遠くで、ざわざわと人々が生活する音や、学生たちの笑い声、そしてチャイムが鳴る音が聞こえる。生活音って安心するなぁ..。
..ん?チャイムの音..?


「ちょ、今鳴ったの予鈴じゃないの!?」
『え』
「伊賀気づくの遅い!」
「諏佐も気づいてないじゃんー!」
「呑気におしゃべりしてる場合ちゃうで!」
『2人とも急いでー!』


ばたばたと4人で学校まで走る。教室に着いたのは、遅刻ギリギリで、4人揃って汗だくで息絶えだえで。みんなからお前らどーしたよ、なんて声をかけられるけど、息が切れていて答えられなくて。なに、長距離マラソンでもしてきたの?まだ冬じゃないよ?なんて言われて笑われて。


ああ、こんな日常が愛しいな、なんて。


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