輝いて


09

※主人公不在。


「ありがとー!」


諏佐が珍しく、いつものにやにやした笑顔ではなく、素直にとても嬉しそうな笑顔を浮かべている。八坂から何かを貰ったようや。渡した側の八坂は少し照れつつも満足気。...これはラブイベントフラグか?

ラブロマンスが大好物の俺は、この機会を逃すまいと2人の間に割り込んだ。


「なんの話してるん?」
「わ、忍足か」
「びっくりした」
「なんやめっっちゃ楽しそうやから混ぜてぇな」
「今おすすめのアニメとか漫画の話よ」
「今は何がいいん?」


アニメ漫画の話は忍足も興味のある分野の為、そのまま首を突っ込ませてもらうことにした。



「やっぱ俺は9人の女神たちが学校救う為にアイドルになるやつかな!」
「?」
「八坂..言葉が足りない」
「え?」
「忍足、女神たちってのは学生さんだから。」
「なるほど。」


八坂のおすすめは、9人の女の子たちが自身の通う学校の危機を救うためにアイドルになるというストーリーのものらしい。


「アイドルものかー。八坂ぽいな」
「そーだよね。日常と非日常がうまい具合に混じってる感じほんと好きそう」
「衣装とか可愛いん?」
「もう、聞いてくれ!!語るぞ?語っていいよな?いくぞ?」
「はいはい」


自分の好きなものを語れる嬉しさからかどんどんテンションを上げてきた彼は、どこからかクリアファイルを取り出した。


「これを見てくれ!」
「どっから取り出したん..」
「この衣装!」
「無視かいな..」
「これはバレンタインの時の衣装なんだけど!」
「わぁ..」
「これは..」
「な、すごいだろ!」


満面の笑みを浮かべる彼の手元には、ふりふりメイドの衣装を着た可愛い女の子たちの姿があった。各々のイメージカラーを部分に施したその可愛らしい衣装は、それぞれをより魅力的に魅せている。


「もうなー、アニメ中でメイドになる時とかあるんだけどほんと最高で!」
「八坂好きそー」
「衣装もそれぞれ可愛いし、キャラクターもそれぞれ個性的で魅力あるし、なにより歌もいい!!」
「アイドルもんやしなぁ、凝ってるなー」
「なによりこのアニメ、最初雑誌の合同企画から始まったんだけど、最初のCDがコミケ販売で全然売れなくてな..そこからアニメ化されるなんてもう、感極まるよ俺..」
「熱いな..」
「八坂は最初から追っかけてたん?」
「そう!雑誌は毎月買ってたけど、なんかぴーんときてな!!」


八坂は拳を握りしめ、熱弁している。
2人は興味ある素振りで質問をしているが実際はまるで興味がない。肘を着いて、足組の姿勢だ。こんなにも興味のない様子がありありと出ているのに、しゃべり続ける八坂はある種勇者である。


「(忍足なに聞いてるの、長引かせてどーすんのよ)」
「(諏佐さんこそなんとかしてぇな..)」
「(こうなった八坂を私がなんとかできるわけないでしょ)」
「(俺もできるわけないやん..もうなんか教室自体熱い気ぃしてきた..)」
「(同感..)」
「と、いうわけでだな!」
「ん?」
「お?」
「このコンテンツは本当に俺をわくわくさせてくれるんだよ!!いつか大きなことやってくれんじゃないかなーって!」
「「ふーん」」
「お前ら聞いてた?」
「聞いてた聞いてた」
「ばっちりだよー」


ジト目で2人を見据える八坂であったが、ふぅと息をつくとさっさと切り替えたのか、忍足に問いかける。


「んで、忍足が今ハマってんのは?」
「俺かー。今マンガよりドラマが来ててなぁ」
「ドラマ!いいじゃない!」
「結婚してると見せかけて実は契約同棲な2人の話なんやけどな、ほんま萌えるんや〜」
「あー、それ有名よね」
「俺初めて聞いた」
「あかん..あかんで八坂、このドラマは見逃し禁止や!」
「愛ダンスが流行ってるのよね」
「そうやねん!ヒロインのダンスが可愛くてな..旦那さん(仮)と距離を縮めていく感じがなんともいえん..きゅんきゅんやで」
「へ〜」
「あ、八坂興味ないな?今からでもええからmytubeでチェックやで!!」


忍足の熱弁と、自らを抱いてくねくねしながらひたすら語る様子に引き気味な2人である。


「ま、まぁ気が向いたら見てみる..」
「絶対やで!」
「う、うん」
「あー、そーいや、諏佐のおすすめは?」
「あ、私の!?そうね、その話しましょ!!」


さっさと話題を移そうと提案をする八坂と諏佐に、まぁええけど、と名残惜しそうな様子で忍足は諏佐の方へ向き直った。


「私の今のおすすめはねー、ずばり、今大人気!スケートアニメね!」
「スケートアニメ..」


自分の番が来た途端、目を輝かせる諏佐。
今の流行りはスケートアニメらしい。スケートアニメ、とても人気のあるものを一つ知っているが、あれは..


「なんていったって主人公と師匠の素晴らしき愛が「はーいすとーっぷ」なによ忍足」
「腐った話は好き嫌いあるからアウトや!」
「なによ!いいじゃない!美少女萌えと一緒でしょ!」
「せやけどあかんねん」
「区別はんたーい」
「あいた!暴力はんたいやー」



腐った話は公共の場ではいただけない。いや、それだけがだめなわけではないのが今回はひとまず止めさせてもらう。
むくれた諏佐のチョップが忍足に決まり、ほわわんと収束した。


「諏佐あれは?」
「あれ?」
「この間カフェ行ったじゃん」
「ああ!」


諏佐と八坂の会話に、忍足のにやにや顔が戻ってくる。


「なんや、デートか?」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
「楽しかったけどな」
「八坂!」


2人にからかわれた諏佐は右まで真っ赤にしている。いや、からかっているのは忍足だけで、八坂は真面目に言っているようだ。


「八坂のろけんなやー」
「?」
「...八坂は置いといて。」
「置いとくなよ」
「八坂は置いとこか」
「置いとくなって」
「漫画なんだけどね、ある日席替えで好きな子の後ろの席になった男と女の子のお話!」
「学園恋愛もんかー」


にやにやと諏佐が漫画を取り出す。


「はいこれ!後ろの席の男の子が、授業中にイタズラしたりしてじゃれ合ってる内に関係が進行していって..って感じの青春ラブストーリーだから!ヒロインの隣の席の男がイケメンなんだけど邪魔なんだよねー」
「俺も読んだけど面白かった。」
「八坂も読んだんかいな」
「んで、そこのコラボカフェやってて諏佐が1人で行きたくないっていうから」
「や、八坂が行きたそうだったんでしょ!」
「..そうだったか..?」


ばらされたくないことをバラされたからか、逆ギレを始める諏佐であったが、萌え以外への興味が薄い八坂の反応はいまいちである。


「諏佐ぁ、ツンデレはほどほどにしときやー」


そんな二人の様子をにやにやと見ている忍足は、にやけ顔を隠そうともせず伝える。
む、としたのが空気で伝わってくる。


「忍足ぃ、うかうかしてると隣の席のイケメンに取られるよ?」
「なんのことかわからんなぁ」
「ふーん?」


形勢逆転とばかりににやにやし始めた諏佐。


「まあええわ。これ借りてええの?」
「ためになると思うし、じっくり読み込んで!」
「だからなんのことかわからん言うてるやろ」
「もー、隠さなくてもいいから!」
「諏佐、忍足、」


「2人とも楽しそうだね?」
「「委員長!」」
「さっさと席について。じゃあ話し合い始めます。八坂くん、メイドの衣装の意見もらえる?」
「任せろ!!」


2人の後ろから委員長の長尾が声をかける。
そのまま、八坂に声をかけると教卓へ戻っていく。


「委員長八坂の扱い上手いなぁ..」
「うかうかしとったら取られんで?」
「あんたに言われたくないから」
「俺はなんもないで?」
「ま、これでも読んで後悔のないようにね」
「ありがとさん」


手渡された漫画を受け取ると、静かにそれぞれの席へ戻る。
すると、跡部と苗字が待っていましたとばかりにこちらを見ていた。


「忍足何話してやがった?」
『長話だったねえ』
「漫画の話や」


へー!と目を輝かせるのを見るのは面白い。


『またおすすめ教えて!』
「ええでー、景ちゃんにも教えたるわ」
「ふん、まぁ楽しみにしててやるよ」




その輝きを見ていたいなんて、思っていない。


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