お菓子パーティーは非常に楽しかった。錫也のパウンドケーキは相変わらず美味しくって、めっちゃ食べた。私のマカロンも好評でした。
でも、まぁ、その、手作りお菓子ってのは余るのが付き物なわけで。
羊でも食べきれなかった大量のマカロンを抱えて、校内をうろつく。
ちなみに錫也は引き続き調理室で新レシピの開発に勤しむらしい。哉太と羊は眠くなったといって寮に帰ってしまった。月子ちゃんは先程生徒会に呼び出されて行ってしまった。というわけで一人なのである。
「どうしようかな、これ」
ビニール袋に突っ込んだ色とりどりのマカロンを見て溜め息を吐く。
外は相変わらずのざあざあ降りである。
窓を開けて、ビニール袋を持っていないほうの手を差し出す。雨粒が手のひらに触れて、冷たい。不意に、先程の白昼夢を思い出した。あれは、本当に白昼夢?
「咲月ちゃん」
「えっ?」
突然呼ばれて、ハッと振り向くとそこには水嶋先生が居た。
「どうしたの?元気ないね」
「や、別にそんなことないですよ」
じゃあ、とその場を辞そうとしたら「それさ、」とマカロンの入ったビニール袋を指差した。
「僕ももらっていいかな?」
「へ?あ、ああ、いいですよ」
水嶋先生にマカロンを渡そうと近付くと、ガシッと腕を掴まれて、そのまま歩き出された。
「え、わ、ちょ、水嶋先生!!?」
「はーい、ちょっとおいでー」
そうして私は半ば強引に保健室に連れて行かれたのでした。
「しっかし大量に作ったなー朝野ー」
「美味いな」
「甘いね」
「そりゃ、まあ、マカロンですから」
保健室に行ったら星月先生と陽日先生が居て、陽日先生が大量のマカロンを目敏く見つけるものだから私は保健室で第二のお菓子パーティーを開くことになってしまった。
緑茶とマカロン。
………なんだこの微妙な組合せは。わけわからん。
「琥太にぃ紅茶ないの」
「残念ながらない」
「いいじゃないか!緑茶も十分おいしいぞ!」
「陽日先生それ何個目」
あれだけ大量にあったカラフルマカロンは、すっかり片付いて(主に陽日先生の腹の中に)助かってしまった。
「あー、よかったー。先生方、ありがとうございます」
「いえいえ」
「美味しかったぞ」
「ああ!!美味かった!」
ビニール袋をばっさばっさと広げてから丁寧に畳んで捨てた。
「で、咲月ちゃん」
「はい?」
「なにを、悩んでたの?」
「えっ……あー…」
どうやら水嶋先生には隠し事はできないようだ。水嶋先生の言葉に、陽日先生と星月先生もこちらを見ている。…ここは観念して話すか…。
「………あ、あのですね、キ、キスを、されたんですよ」
「キス?」
水嶋先生が聞き返した直後にガタタン、と大きな物音。なにかと思って見やると、何故か星月先生が椅子から落ちていた。
「……何してんの琥太にぃ」
「………………別に」
何事もなかったのように椅子に座り直す星月先生。陽日先生が楽しそうに笑う。
「朝野も青春してるんだなあ!な、水嶋!!」
「ああ、そうですね(スルースキル発動)で、咲月ちゃん、キスがどうかしたの?」
「あう…それがですね、白昼夢かもしれなくて」
「………………は?」
私の言葉に目を点にさせる三人。絶対変な奴だと思われてるんだろうな…。
それでも苦笑しながらも優しく聞いてきてくれる水嶋先生。
「ど、どういうことかな?」
「そ、それがですね、いきなりキスしてくるような人じゃないんですよ!それにしたあとだっていうのに相手は何も知らない顔をしているので、もしかしたら顔が近かっただけでキスなんかしてないんじゃないかなー…って思うんですけど…どう…思います?」
「………………」
「………………」
「………………」
黙り込む三人。それでも、私はじっと先生方を見つめて答えを待った。
一番最初に口を開いたのは陽日先生だった。
「あのな、朝野、それは恐らく白昼夢じゃな「それ、きっと白昼夢だよ咲月ちゃん」
「えっ!!?ま、マジですかっ!!!」
陽日先生の口を塞いで笑顔で言う水嶋先生。…そっか、やっぱり白昼夢だったんだ。よかった、なんか吹っ切れた。
「なんかありがとうございました!吹っ切れました」
「いえいえ、これからはいつでも相談に乗るからね」
「はい。じゃ、失礼しまーす」
軽やかな気持ちで保健室を出る。
気持ちが晴れた。外は雨だけど、私の心は快晴だぜ!いやっふう!
「あーあ、東月くん可哀相」
「?なんで東月が可哀相なんだよ?」
「陽日先生は知らなくていいですよ」
「ええー!」
「よかったでしょ、琥太にぃ」
「………………………………まぁ、」
「なんでだよー!水嶋あー!」
「はいはいちょっと静かにして下さいな」
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