act.22




今日も雨。昨日も雨。きっと明日も雨だろう。さっき携帯のウェブで天気予報を確認したら憎たらしい傘マークが点いていた。ああ全く以て憎らしいことこの上ない。風も強くなってきているらしい。

「雨だねえ」

「こんなんじゃ天体観測は当分無理だね」

「ったく雨は嫌いなんだよなー」

「ああ天パが…」

「うるせえ錫也!」

皆元気だな。雨でも元気なのはいいことだよ、うん。
ぼんやりしている私に、不意に錫也がよしよしと頭をなでてきた。

「どうした咲月?」

「うーん…いや別に…」

「………………」

本当に、特に理由もなく雨の日にはテンションが下がる。もちろん髪の毛が湿気でぶわっとなるのも嫌だけど、なんとなく雨は嫌だ。ざあざあと降る雨を、ぼんやりと眺める。

「雨かー…」

雨自体は好きなんだけどね。雨。自然の現象は嫌いじゃない。星もその一つなわけだし。そういえば雨だとテンション下がるのに雪だとテンション上がるのは何故だろうか…。

「どうしたんだよ咲月、さっきからぼーっとして」

「んー?森羅万象について考えてる」

「随分壮大なテーマだな」

学会でも開く気か?という哉太の戯言を無視して引き続き考え事。…というか雨の日はぼーっとするのが一番かもしれない。

「どうしよう錫也、咲月ちゃんが…」

「ああ、俺も薄々ヤバいなとは思ってたんだよな」

「錫也、ハゲやすそうだもんな」

「だ・れ・が、頭の話をした?ん?哉太?」

「あだだだだだだだだだだ痛い痛い痛い痛い」

「哉太は放っておいて、咲月をどうするか考えよう」

「そうだね」

はっと我に返ると私から少し離れたところで四人がひそひそと話し合っていた。な、何してんだ…?

しばらく見ていると何か結論付いたのか、顔を上げる四人。代表なのか、月子ちゃんがつかつかと私に歩み寄ると、私の手を勢いよく掴んで、

「お菓子パーティーをやろう!咲月ちゃん!!」

「………………へ?」




















雨のせいか、人があまりいない食堂、の調理室。私はひたすら卵白をかき混ぜている。

「ごめんな、お菓子パーティーやろうとか誘ったくせにつくらせちゃって」

「いや、別にいいよ。何かやること欲しかったし」

そう。お菓子パーティーに誘われたのはよかったのだがお菓子を作れるのは私と錫也ぐらいだったのだ。月子ちゃんが「私もやる!」と挙手したのだが彼女の料理はなんというか…その…壊滅的(らしい)ので錫也と哉太が全力で押し止どめていた。

「ていうか購買でお菓子買って食べればよかったんじゃない?」

「それじゃ意味ないだろー…てさっきから咲月はなに作ってるんだ?」

「マカロン」

「へえ…」

マカロンのサンドするやつは、卵白からできている。卵白だが大量に砂糖を入れるうえに、チョコをサンドするからめちゃくちゃ甘くなるんだけど。

昔一回だけ作っただけだったから上手くいくか心配だったが、なんとか上手くできたみたいだ。

「へえー、美味いな」

「あ、ちょっとまだ食べないでよ!」

「はは、いいじゃないか」

ケーキの生地をさくさく混ぜながら出来上がったマカロンをつまみ食いする錫也。器用だな。

食堂の方から、『咲月ー!!錫也ー!!まだー!!?』と羊の声が聞こえる。
全く、食いしん坊だなあ羊は。

「私、マカロン置いてくるね」

「あ、咲月」

「ん?」

マカロンの皿を持って調理室を出ていこうとして、不意に呼ばれて振り向くと、唇に何か柔らかいものが押し当てられた。甘い。

「な、美味いだろ?」

「……ッ!!!?」

まぁ俗にいうキス、というものをされたわけで。唇をなめると、たった今錫也が食べていたマカロンの味がした。

『咲月ーっまだあー?』

「っあ、い、今行く!!!!!」

羊の声に我に返る。錫也は何もなかったかのようにいつもの笑顔でケーキの生地を混ぜていた。な、なんて変わり身の早い…!!

「咲月?あっマカロンだ」

「ぅわっ羊来たの!!?」

「だって待ち切れなかったんだもん」

「ああ、ごめんごめん」

「……?咲月、どうしたの?顔が赤いよ?」

「えっあっそ、そうかなあ!!?ちっちちち調理室暑いからね!」

「……ふーん、そうなの」

「そうだよ!」

羊はちらと錫也と私を見たあと、マカロンの皿を持って行ってしまった。

私は私でそーっと錫也の顔を伺うと、錫也は素知らぬ顔でスポンジを焼いていた。
……あれは夢だったのか?いやいやそしたらなんて白昼夢を見ているんだ私ったら。

「……?」

なんだかよくわからないまま、私はお菓子作りを再開した。







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