むかし見つけた理想





「どうした、直獅」

「…………あ、」

琥太郎センセの声で我に返った。あ、あれ?オレ今まで何してたんだっけ?
キョロキョロと辺りを見回していると、琥太郎センセが訝しげな顔でオレを見た。

「お前、大丈夫か?校内見回りしてくるって言って元気よく職員室飛び出したまま帰ってこなかったから、俺が迎えに来たんだぞ」

あーねむい、と大きな欠伸をこぼす琥太郎センセ。あ、そうか、見回りの途中でオレは空の星に見入ってしまっていたんだ。それでオレは廊下の椅子なんかに座ってたのか。理解した。

「……なにか、あったのか?」

「え?」

「いや、何か思い詰めたような顔をしていたからな」

琥太郎センセの言葉に思わず自分の顔をおさえる。そのままぐいぐいと自分の顔を揉んだ。

「………直獅?」

「…ちょっと、昔のことを思い出してたんだ。…まあ気にするな、琥太郎センセ」

「…………そうか」

無理はするなよ、と言って笑う琥太郎センセに礼を言って、オレは素早く椅子から立ち上がった。

「さっ、琥太郎センセ!明日も頑張るぞーう!」

拳を突き上げて元気よく叫ぶ。が、琥太郎センセはあまり気乗りしなさそうに欠伸をして「ああ、そうだな」と返事をしただけだった。なんだよ琥太郎センセ!もっとテンションあげていこうぜ!と言うと心底迷惑そうな顔をされた。ちょっと傷付く。
少し傷心した自分の心を窓から見える星で癒していると、琥太郎センセがそういえばと何かを思い出したように顔をあげた。

「ああそうだ直獅」

「おう、なんだ?」

「来週の特別講習で来る講師の確認したか?」

「…………はえ?」

何ですかそれ。
と、特別講習?え、ウソ、来週そんなのやるって言ってたっけ?

アホみたいな顔でボケッとしてるオレを見て、琥太郎センセは深い深い溜め息を吐いた。うわわあ、す、すまん琥太郎センセ!

「ったくお前は…職員会議で一体何聞いてんだ…」

ほら、これが講師の一覧リストだと言って白衣のポケットからしわくちゃな紙を投げて寄越す琥太郎センセ。なんだこれめっちゃ読みにくい。
読みにくいので壁に押し付けて必死で伸ばしてみた。うん、まだマシだな。で、えーっと来週来る講師は全部で5人か。朝野美月に桜田孝、桃山祐介、日立白夜に、………!!

「日暮、……朔…?」

朔?
いや、そんなバカな。日暮朔って、あの日暮朔?オレが一方的に別れを告げた、朔?

茫然自失とするオレに気付かず、前を行く琥太郎センセはオレが呟いた朔の名前を聞いて、ああと頷いた。

「日暮朔は俺の高校の後輩だ。都内のプラネタリウムで働いててな、割と優秀だぞ」

ようやく俺の役に立つ、と言う琥太郎センセの呟きはオレの耳に入らなかった。
オレは、講師リストの一番下に書いてある名前を何度も何度も見返して、会いたいという気持ちと会いたくないという気持ちがない交ぜになった心に戸惑い、泣いていいか笑っていいのかわからなくなってしまった。

「直獅?どうした?」

「えっ……ああ、いや、……」

欠伸をしながら聞く琥太郎センセに、オレはなんでもないと呟いて、来週の特別講習の日が早く来てほしいような永遠に来てほしくないような気持ちになったのだった。






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