さよなら、リトルプリンセス
弘樹が事故に遭った。
原因は、好きな子を庇ったかららしい。彼氏に突き飛ばされて道路に飛び出しかけた彼女を庇って、あいつは跳ねられた。重体で、未だに目を覚ましていない。
真っ白な病室で、たくさんの管に繋がれた弘樹を眺めながら呟いた。
「ほら見ろ、だから言っただろ弘樹」
弘樹は何も言わない。
オレは、溢れる涙の理由もわからず、心の中で芽生えかけていた何かを握り潰した。
「恋なんて、くだらないんだ」
直獅から連絡が来なくなった。
一番最後のメールは「ごめん、もう図書館行けない」で、それから幾度メールをしても返ってこない。直接学校に行って聞こうかとも考えたが、一番最後のメールを思い出すと足が動かなかった。
「直獅………」
なんでだろう、すごく悲しい。心にぽっかり穴が開いたようで、胸が苦しい。涙が自然と溢れようとするのをぐっと堪えて、私は前を向いた。
「泣いてちゃダメだ」
きっと何か、理由があるんだ。直獅のことだもの、理由もなくあんなメールを書くはずがない。書く、はずが、
「…………っ」
ないとわかっているのに、泣いてしまう。ああ自分はこんなにも弱い人間だったのか。自分はこんなにも、
直獅が好きだったのか。
「…………」
そうか、私は直獅が好きだったのか。今、やっと気付いた。でももう遅い。
目を閉じた。浮かんでくるのは直獅。ころころと表情を変えて、毎日を楽しそうに生きる彼。
「ありがとう、直獅」
私は、あなたが好きでした。