倉持と御幸とこたつ


「うぉーさみぃー」

あ、御幸の声だ。そう思った。でも私は気づかないかのように5つ目のみかんに手を伸ばした。

「倉持こたつー」

御幸がそう言って、私と倉持が入っていたこたつに入ってきた。

『うわ冷たっ』

「俺今まで寒い中やってたんだぜー?もうちょっと言い方ってのがあるんじゃねー?」

「ちょっ、うるせー御幸!あ、あー!!!!」

倉持の叫ぶ声。すごくうるさい。ゲームオーバー、とテレビには表示されていて、倉持はため息をつきながらリプレイボタンを押した。

『倉持みかんたべる?』

「食いたいけどゲームしてる」

『はい』

倉持の口元にみかんを近づけると、倉持はそれをパクリと食べる。

「いいなー俺にもー」

御幸が言ったので、私は人が変わったかのように話す。

『さて!注目の御幸選手!どんなボールでもとるキャッチャー!みかんは口でキャッチできるのでしょうか!』

「誰だよ」

倉持がヒャハハと笑う。

「よっしゃ任せとけ。ちゃんと投げろよ?」

御幸が笑った。黒縁メガネの奥の目が細くなる。

「言ったな。とれなかったらココア買ってこいよ」

『はいいくよー』

私はせーの、でみかんを放物線状に投げる。

御幸は口を開けてそのみかんを追う。でもそのみかんが着地したのは御幸のメガネの上だった。勿論笑いをこらえきれるわけがなく。

『あははははは!!!』

「ヒャハハハハ!!!」

倉持なんて笑いすぎてもうゲームどころではないようだ。

メガネの上に着地したみかんを御幸が手でとり食べる。

「あめぇー」

『ココアー。御幸ココアー』

「今のはお前が悪ぃだろ」

とかなんとか言いながら御幸は腰をあげる。わーい、となまえの喜んだ声が最後に御幸の耳に届いた。

『倉持もみかん食べようよー』

「お前は食い過ぎだ」

6つ目に手を伸ばしたらその手を軽く叩かれる。

『じゃあ倉持の背番号のこれでおしまいにしよう』

そう言うと、ヒャハ、と倉持は笑う。さっきは大騒ぎしたゲームオーバーの文字が再び現れたテレビに目を戻して倉持はまたリプレイボタンを押すのだ。




◎のほほんとさせた。いや私がのほほんとしたい。こたつに入ってみかんを食べたい。正月はどこだ。


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