第二章-04


 失礼致します、という声と共に静かに室内へと入ってきたアリシャールにこの部屋の主である男、シンは笑みを浮かべ歓迎の意を込めて手招きをした。豪勢なソファへと腰かける彼を囲む様に立つ二名の男たちも好意的な視線を彼女に向けている。アリシャールも一礼し彼の目の前に立つと胸の前で腕を組み深く一礼をした。

「御久しゅうございます。シン様……いえ、シンドバッド様。先程は大変失礼いたしました」
「いいえ、此方こそシンが迷惑を掛けましたね。アリシャールが気にすることはありません。……寧ろまだ結婚もしていない女性に対してあのような醜態を晒す王に非があります」

 ねえ、シン?と青筋を立てながら微笑む頭巾の男――ジャーファルに同意するように隣に立っていたマスルールも無言で頷く。だがそんな部下たちの反応も気にせず、といった様子でシンドバッドはニコニコ笑みを浮かべたまま、呆れた視線を向けるアリシャールへと口を開いた。

「本当久しぶりだな、会うのは1年ぶり位か?」
「はい、月日というものはとても早いものですね……」
「ヤムライハやシャルルカンたちも貴方に会えなくて淋しがっていましたよ。是非またシンドリアへ来て欲しいと、言っていましたし」

 ジャーファルの言葉にアリシャールは目を丸くする。まさか自分に対してそのように思ってくれている人物たちがいるとは思っていなかったからだ。……シンドリアにいた時期はとても短かったが慕ってくれている人たちが居たことや楽しかった日々がふと脳裏に過り、何だかこそばゆい気持ちになってしまう。
 薄らと頬を赤くしながら視線を泳がす彼女の姿に今度は彼らが驚いたように顔を見合わせる。が、直ぐに嬉しそうにシンドバッドは笑うとアリシャールの頭を優しく撫でた。

「なんだか前より柔らかくなったな。アリサが小さい頃を思い出したよ」
「なっ……、そ、その話はやめてくださいっ」

 言葉を濁しながら思わずジャーファルの背後へと隠れてしまう彼女にシンドバットとジャーファルは吹き出すと声を出して笑い始める。そんな彼らの様子に助けを求める様にマスルールへと視線を向けたアリシャールだが、彼も困ったように視線を返すだけで無駄に終わってしまった。

―――
良い様にからかわれてるアリシャールさん。は、話が全然進まない……。

2012/12/09
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