第二章-03


「わーゴージャス!!」

 シンや彼の部下たちと別れたアリシャールたちはベルガールに案内され客室へと足を運んでいた。
 扉を開けた瞬間広がる広い部屋と豪華な家具の数々にアラジンは感嘆の声を上げ、はしゃいだ様子で大きなベッドへダイブする。
 凄いよーこれー!!とアリシャールに声を掛けた彼に対し「暫くの間ベッドらしいベッドで寝ていませんでしたしね」と返しながら彼女も荷物を置き、息を付いた。

「何か分からないことがあれば、なんでも仰って下さいね」

 落ち着かないのか、いそいそと部屋の中を動き回るモルジアナとアラジンのはしゃぎようにベルガールの女性も微笑ましそうに笑みを浮かべながら口を開けば、アラジンから友人であるアリババを知らないか?と尋ねられる。……直後返答の代わりに女性の手から盆が落ち、床に果物が零れてしまった。
 彼女の動揺する姿に三人も予想外だったのか言葉を失って凝視していると慌ててそれ等を拾い、頭を下げる。

「失礼しました。その名前に驚いてしまいました。……よく考えれば、そう珍しい名前ではありませんでしたね。あなたのご友人と同じ名前の者が、今、この国では有名人なもので……」
「有名人……?」

 引き攣った笑みを浮かべた女性にアラジンは不思議に首を傾げた。どことなく不穏な雰囲気の漂う様子にアリシャールは壁に背を預けながら腕を組むと、女性に話をつづける様に促す。

「今“バルバッドのアリババ”といえば、指すのはただ一人……“怪傑アリババ”。この国一番の犯罪者でございます」
「犯罪者が有名人、ですか……」
「はい。怪傑アリババは有名な、今、バルバッドを騒がせている盗賊団……“霧の団”のトップです。二年ほど前から力を付けてきた一大反乱政府軍で国庫や貴族たちの邸宅を襲撃し奪った金品を民衆に分け与えているのです」
「成程、ではその霧の団というのは民衆からすれば“義賊”に近い存在なのですね。……」

 顎に手を添え考え込むアリシャールにアラジンは不安げな様子で声を掛けた。彼の表情に我に返ったのかアラジンの元へと近づき跪くと、安心させるように僅かに笑みを浮かべ口を開く。

「心配ありません。貴方様のご友人である方がそのようなことをするとは思えません。……ご信頼されているのでしょう?でしたら、大丈夫です。きっと」

 アラジンの手を握る優しい手に彼も安心したらしい。握り返し笑みを向ければアリシャールも安堵したように息を付き、立ち上がった。

「白マギ様、モル様。私少々野暮用を思い出しましたので少しの間、御側を離れさせて頂きます」
「どこに行くんだい?」
「……“昔世話になった知人”に挨拶をしに行きます。それと備品の補充に買い物も」

 そう言って扉のドアノブに手を掛けたアリシャールにはどこか有無を言わせないような雰囲気が漂っており、アラジンとモルジアナは戸惑いながら頷く。その様子に申し訳なさそうに僅かに眉を下げながらアリシャールは頭を下げると、静かに部屋の外へと出て行った。

2012/12/09
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