第一章-13


「にしても、こんなところでおねえさんと会うなんてね!」

 モルジアナが手に入れてきた大量の手錠鍵に各々が自身の鍵を探そうと騒がしい牢屋内にアラジンの嬉しそうな声が響いた。彼女も言葉を濁しながら返事を返し、何故彼が掴まってしまったのかと静かに尋ねればアラジンもまた事のあらましを話し始める。
 彼が説明をし終えた丁度その時、出口方面から異臭と共に煙が立ち込めてきた。

「絶対に逃がすな、捕まえろ!!」
「ハイッ!!」
「……白マギ様、姿勢を低くしこの布を口元にお当てください」

 盗賊たちの声が聞こえた来た直後鉄製の扉が閉まる音が聞こえてくる。小柄なアラジンを庇う様に覆いかぶさったアリシャールは彼の口元に布を添え耳元で囁きかければこくり、と彼も小さく頷いた。

「ファナリス様、貴方様もです。……恐らくこれは麻痺毒性のある薬草を焚いたのでしょう、このままでは皆気を失ってしまう」

 口元を押さえ倒れ込む人に混じり苦しそうに咳き込むモルジアナを見つめ立ち上がるアリシャールに彼女は目を丸くする。無理もない、ただ一人何事もないような出で立ちで冷静に立ち振る舞う姿はとても異様な光景に見えたからだ。
 無表情に辺りを見回していたアリシャールも流石に気が付いたのだろう、訝しげな眼で見るモルジアナ対し口を開いた。

「幼い頃から訓練させられていたので、ある程度の毒なら問題ありません。それよりも今は脱出することが何よりも優先されるべきことです。白マギ様、ウーゴ様はお出しになれますか?」

 彼女の問いかけと同時に鍵袋を漁っていたキャラバンの仲間からアラジンへ笛が渡される。漸く戻ってきた大切な友人に彼も元気を取り戻したのか、力強く彼女へと頷きかけた。
 そんな彼に対してアリシャールもまた小さく頷くと胸の前で腕を組み一礼をする。……どうやら壁を壊した時に手錠も壊してしまったらしい。

「私は先に毒物の排除及び脱出ロ確保に言ってまいります。一時御側を離れること、お許しくださいませ」

 そう言って牢を飛び出したアリシャールは迷うことなく薬草の焚かれた通路へと進んでいく。数十個にも及ぶ薬草を通路を通り抜けながら魔法で氷漬けにさせ、地上へと続く扉を蹴破る形で開いた彼女に逃げ惑う盗賊たちも目を見開いてしまう。中には予想以上の速さで現れた彼女を化け物などと叫び腰を抜かす輩もいるほどだ。

「私の望みは我が主をここから無事に脱出させること。このまま逃げて頂ければ貴方たちに危害は与えません。どうぞお逃げになってください」
「う、う、うるせえ!化け物が!!」
「ファナリスの奴共々こいつも殺しちまえ!!」

 頭領が先に逃げてしまったせいか統制の無くなった盗賊たちは剣を抜き彼女を取り囲む。恐怖のあまり軽いパニックになっているのか震えた手で刃を向けてくる情けない姿にアリシャールは小さく溜息をつき、腕輪に手をかざし瞼を閉じた。
 
「真摯と希望の聖霊よ、汝と汝の眷属に命ず。我が魔力を糧として我が意志に大いなる力を与えよ――出でよ、セーレ」

2012/11/25
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