第一章-11


 アラジンに倒された逆臣・呂斎一派が捕えられたその後、黄牙の村は煌帝国の支配下に収まることとなった。が、それは完全なものではない。シャマン亡き今不安定である黄牙を配慮しアラジンと共に残ったアリシャールの指揮の元、白瑛直属の兵たちと一族たちは緩やかにだが着実に新たな生き方へ踏み出していた。

「……そんなことがあったのですね。では白マギ様はそのご友人であるアリババ様という方をお探しになる為にアモン攻略から旅に出ていらっしゃると……」

 黄牙の村復興がある程度一段落ついた頃、アラジンとアリシャールは黄牙一族と別れることになる。丁度彼が目的としていたチーシャンへと向かうキャラバンが春の定期市へとやってきたからだ。
 ――無事車に乗せて貰い砂漠を横断すること数か月、漸く峠を越え後もう少しすればチーシャンへと着くところまで来ている。長い間共に過ごしていたお陰かアリシャールはアラジンから出会う前の出来事を少しずつだが話してもらえるようになっていた。
 楽しそうに話すアラジンの顔、それを興味深そうに聴く彼女の顔は僅かにだが日に焼けており所々衣服も汚れている。それだけ彼等の道のりが長く険しいものだったことをそれらが物語っているようだった。

「そういえばアリサお姉さんが金属器を使っている所見たことが無いのだけど、何故使わないんだい?」

 これまでに何度か凶暴な動物や魔物に襲われたことがある中でアラジンの言う通りアリシャールは一度も金属器はおろか魔法ひとつ使った試しがない。キャラバンの人間たちと同じように剣一つであっさりと倒してしまっていたからだ。
 キャラバン長は彼女がいるだけで被害が最小限に済んだと喜んでいる程にアリシャールは誰からみても素晴らしい剣さばきをしている。……ただ金属器を所持していることを知っているアラジンとしてはなんだか物足りない気持ちにもなっていて、だからこそ思わずこんなことを彼女に尋ねてしまったのだった。好奇心半分、怖いもの見たさ半分、といったところだろう。
 爛々とした目で見つめる彼にアリシャールは一瞬目を丸くするが、そういえばそうでしたねと小さく頷き腕輪を見せるように彼の前へと自身の腕を出した。

「白マギ様から金属器を使用する許可を頂いていませんでしたから、使用していなかったのです」

 すっかり忘れました、と無表情で呟いた彼女に今度はアラジンが目を丸くする。

「僕の許可何ていらないよ!アリサお姉さんが好きな時に使って良いんだよ?」
「……いえ、まだ貴方様と正式に“契約”も出来ていませんし今使用するのはちょっと……」

 珍しく困ったように口籠るアリシャールだが鼻息荒く詰め掛かるアラジンに根負けし、次から使用しますと小さく呟けば途端に嬉しそうに笑い抱き着いてくる。そんな彼を抱きとめながら、敵わないなと僅かに苦笑を浮かべた。

「ねえ、アリサお姉さんの言う“契約”ってなんなんだい?」
「簡単に言えば私と白マギ様、二人を強い絆で結びつける契約です。でも貴方様はまだこの世界に来られて日が浅い。それにセーレを通してウーゴ様からもまだ止められています」
「そうなのかい?!」
「はい。腕輪から聞こえてくるのです。まだまだ時間は沢山あります、ですからゆっくりいきましょう。……それにこれは白マギ様と私が長い間共に過ごし絆を育む必要もありますから」

 それまで私は貴方様と共におります、そう言って跪き小さく微笑んだアリシャールにアラジンも嬉しそうに笑って約束だよ!と答える。
 「約束……」そうアリシャールも繰り返すように呟けば彼の前へと徐に小指を突き出した。不思議そうに見つめるアラジンに約束をする時にはこうするのだと幼い頃母から教えられたのです、とアリシャールが答えれば戸惑いながらもアラジンも細い彼女の小指へと自身の指を絡める。

「ゆーびきりげんまん、嘘ついたらのーます」
「な、何を飲ますんだい?」
「……そういえば、何を飲ますのでしょうか……?」

 幼い頃の記憶なので覚えていませんと冷や汗をかいたアリシャールに思わずアラジンが吹き出せば釣られてアリシャールも小さな声で笑い始める。二人の笑い声がキャラバンの車に響いたその瞬間――頭上から岩の崩れる音が彼女たちの耳に届いた。
 前を走っていた車から岩を落とされたという叫び声が聞こえかと思えば次々と悲鳴が聞こえてくる。防御壁を張る時間もない、そう瞬時に判断したアリシャールがアラジンを守るべく覆いかぶさるように彼を抱きしめれば、直後凄まじい音と共に彼女の視界は真っ白に染まってしまった

2012/11/04
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