第一章-09


 竜巻の正体は白瑛の発動した金属器によるものだった。――本来ならば征西部隊の将に抜擢される筈であった呂斎。白瑛に奪われたことから全てが始まってしまったこの争いは、彼にとって憎く邪魔な存在である白瑛の葬ることが目的であったことが後になって判明する。
 彼女の裏をかき殺害を試みる呂斎だったが、あと一歩の所で現れたアラジンとウーゴによって完膚なきまでに叩きのめされてしまい、彼女の命を奪うどころか自身の命を失いかけるまでの事態になってしまった。(草原に転がる呂斎を見てアリシャールがざまあみろ、と鼻で笑ったのは言うまでもないだろう)
 ……こうして黄牙一族、そして白瑛を陥れた呂斎の陰謀はアラジンによって打ち砕かれたのであった。

「大丈夫ですか、青舜様?」

 怪我を負い気絶した青舜が目を覚ましたことに治療を行っていたアリシャールも胸を撫で下ろす。白瑛から呂斎一派を鎮圧したことなど気絶していた間の一連の出来事を聞き、青舜も驚きを隠せないのか目を白黒させている。無理もない、あの大量にいた兵たちを年端もいかない少年が倒したというのだ、驚かない訳がない。しかも彼は自身を“マギ”と言うのだから妙な納得を覚えてしまうのも何だか変な感覚だった。

「この者は青舜。私とは旧知の仲であり、共に“迷宮”を攻略した部下でもあります」
「おねえさんたちは“迷宮”を攻略したのかい!?」
「ええ。……私とは違う迷宮ですがアリシャールも攻略者であり、金属器の所有者です」

 そう言って見せられた白瑛の扇とアリシャールの腕輪は竜巻を発見した時と同じように彼の笛から放たれる光に反応し光を放ち始めた。恐る恐るアラジンが二つの金属器に触れればそれは先程の非ではない強烈な光を放ち二対の巨大な何かを形作り始める。
 ……大きすぎるその正体に彼等は勿論周囲にいた兵士たちも驚愕することとなった。

「ごきげんいかが?皆さん……ワタシはパイモン。狂愛と混沌よりソロモンに作られしジンよ。主は女王――練 白瑛!!」

 白瑛の金属器から現れた女性の形をしたジンは台風でも来たの?なんて白瑛に尋ねながら笑顔で周囲を見回している。どうやら久々に外へ出たことが喜ばしかったのだろう。そんな彼女の姿を見て呆れるような声色で溜息をついたのはアリシャールの金属器から現れたジンだった。

「パイモン、君は本当相変わらずですね……。少しは落ち着いたらどうですか?」
「うわ何よその言い方!久々に会って第一声がそれって失礼すぎるでしょ!?」

 額に手を合わせやれやれ、とぼやく青年の形をしたジンにパイモンが食って掛かり途端に口論が始まった。頭上で巻き起こるジン同士の口喧嘩にアラジンはおろか攻略者であるアリシャールたちも口を挿めないでいる中、2人の喧嘩を仲裁するように笛から出てきたウーゴに漸く彼女たちの口も閉じられる。
 ウーゴに対し恐縮する青年のジンとは逆に「珍しいお方に会えたわね!」と楽しそうにはしゃいでいるパイモン。対照的な2人を見てアリシャールはジンによっても性格が本当に違うのだなと関心をしていた。
 ぼんやりと彼らを見つめる彼女を余所に3人のジンたちは何やら集まりジェスチャーを交えながら会話をしている。頭のないウーゴの謎の動きは人間たちにはさっぱりな行動だが、2人は理解出来ているらしく相槌を打ちまた彼らもジェスチャーで返していた。
 
「――事情は分かりました。マギよご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません。私はアリサ……いえ、アリシャールを主とします真摯と希望の精霊、セーレです。以後お見知りおきを」

 深々と頭を下げたセーレは体を小さくしアリシャールと同じ程の大きさになる。彼女に微笑みかけ肩を叩けばアリシャールも頷き、アラジンの前と跪き頭を垂れた。

「改めまして……当代の“守護者”を務めさせて頂いております、アリシャールと申します」
「“守護者”ってウーゴ君から聞いたことあるけど、どんなことをするんだい?」
「マギの補佐・守護を宿命付けられた特別な人間のことよ。それにしても貴方たち、大変だったのね……それに世界にも異変が起こっているようだし」

 セーレと同じように小さくなったパイモンはアラジンに対し労いの言葉を掛けるが、それと同時に自身にとっては世界のことなどどうでも良いことだと一蹴する。彼女にとって自分が見込んだ“王の器”である白瑛を王にすべく力を貸すことが自身がすべきことであり存在意義だからだという。それは守護者であるアリシャールのジン、セーレも同様だとアラジンに言えば彼は不思議そうに首を傾げ、口を開いた。

「“マギ”ってなんなんだい?僕は、これからいったい何をすべきなんだい?」
「おお“マギ”よ、ソロモン王にルフから作られたワタシたちが貴方に指図するなど絶対に許されません」
「パイモンの言う通りです。貴方様を導けるのは大いなる“ルフ”の意思だけです。……そして“ルフ”からの導きに貴方様お助けし、お傍でお守りするのが“守護者”の役目なのですよ」

 畏まった態度で答えるパイモンとセーレにアラジンがシャマンから“王の選定者”であると聞いたことを伝えれば、それこそが“マギ”の使命であると安堵した表情で答えられる。また、アリシャールも白瑛も王候補として煌帝国の“マギ”……つまりジュダルによって選ばれたことを聞きアラジンは驚きで言葉を失ってしまった。まさか自分と同じ存在がいるとは思わなかったのだろう、目を白黒させる彼にアリシャールからも話がされる。

「その“マギ”様に私は以前までお仕えをしていました」
「そうなのかい?!」
「はい。ですが現在はもうその関係は切れましたし、何より……私は白マギ様、貴方様にお仕えをするべきだということが今分かりました」

 彼の後ろに立つウーゴを一瞥し、彼女が見るあの夢のことについて話し始めればアラジンも同じ夢を見たという。やっぱりおねえさんがそうだったんだね、と嬉しそうに笑った彼の表情に言いようのない懐かしさを覚えたのは自分の勘違いではなかったということが分かり、安堵と共にアリシャールも嬉しそうに微笑を浮かべていた。

2012/10/08
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