第一章-08


「それゆえ、私は貴方に従おうと思ったのです……」

 杖を持つ手を震わせながら喋るシャマンの周囲は彼女自身の血で赤く染まっていた。大量に出血をしている上、高齢である彼女にとってもう立つことでさえ限界に近い筈だ。それでもなお一族の為に立ち続けるシャマンの姿に白瑛も苦しげな表情を浮かべる。

「……しかし、貴方のその傷は尋常ではありません。やはり我が軍の矢で……」
「“そんなこと”はどうでも良いのです。村長一人と、村人全員の安全どちらが大事か、貴女なら分かってくださるだろう?」

 シャマンの鋭い視線に白瑛も口を噤み目を伏せると、振り絞るような声で返答をし頷いた。彼女から正式に黄牙一族が煌帝国の保護下……つまり傘下に降るという宣言がされる。
 その途端項垂れる様に崩れ落ちたシャマンを囲う様に集まった一族を掻き分けるようにアリシャールが割り込むとシャマンの前で祈る様に手を組み気を集中させる。その瞬間、彼女の指にはまっていた指輪に五芒星の印が輝きアリシャールの身体が淡い光に包まれる。それに繋がれるようにシャマンにも同じ温かい光が包み込まれると苦痛の表情が和らぎゆっくりとした動きで体が横になった。

「今の内にシャマン様をお部屋にお連れしてください!」

 声を荒げたアリシャールの珍しい姿に白瑛は驚きつつも、一族の人間と共に黄牙の住居へと入っていった彼女の後姿を見つめる。……それだけアリシャールにとって大きなものを彼女達から受けたのだろう、だからこそあのアリシャールが他者の為に動いているのだと思えた。
 彼女も彼女で戦っている。私自身にも戦い、決着をつけるべき相手がいる。……戦わなければ。そう意気込み拳を握るとこの事態の元凶であるの人間の元へ向かうべく、白瑛たちは馬を走らせた。

「……」

 ――数刻が過ぎた頃、シャマンの生命がルフの元へと旅立っていった。悲しみに暮れる一族たちを気遣い外へ出たアリシャールは空をぼんやりと見つめ佇んでいる。そんな彼女の元に涙で目を腫らしたアラジンが笑みを浮かべ近付いてきた。

「すみません、私の力が及ばずにシャマン様をお救いすることが出来ませんでした」
「……あれはおねえさんの力なの?」
「はい。詳しくは言えませんが金属器を通して私の魔力をシャマン様に送り生命力と傷の回復を促していました」

 長い間魔力を出し続けたせいだろう、上手く力が出せない。これだけやっても人一人救えない自身の力に、情けないなと呟き思わず苦笑するアリシャールの袖をアラジンが引っ張った。

「おねえさん、ありがとう」
「……私は何もしてませんよ」
「ううん、おばあちゃんがいってた。おねえさんから貰った魔力が凄く温かかったって。とても心が優しい、綺麗なルフなんだけど透明で不思議なルフをした人だねって」
「ちょっと……ううん、全然意味が分からないです」
 
 僅かに眉を下げたアリシャールにアラジンが吹き出せば、彼女もまたつられて小さく口角を上げる。何故だか彼と話しているととても温かで懐かしい気持ちになる。そう感じたのはアリシャールだけではなくアラジンもだった。
 ――何故だか初めて会ったような感覚にならないのだ。古くからの友人、否家族に向けるような愛情が彼の胸から湧き上がってくる。家族の居ないアラジンにとってそれは知識だけで知っていた感情で、何だか不思議でくすぐったい気持ちになるが嫌な気持ちにはこれっぽちもならなかった。

「僕、おねえさんのことがもっと知りたいな」

 アリシャールの手を握り甘えるように幼げな笑みを浮かべるアラジンに彼女も手を握り返した時、遠方から激しい風の音と共に巨大な竜巻が発生するのを確認できた。何が起きたのかと目を凝らす彼女を余所にアラジンの笛からも竜巻の方へと一筋の光が放たれる。

「行ってみよう、ウーゴくん!おねえさんも!」

 彼からの声にどうやって行くのですか、と尋ねながら振り向けばそこには筋肉隆々の青色をした巨大な身体が立っていた。首から上が笛だというアンバランさと不意打ちの出来事に腰を抜かしたアリシャールをアラジンと同じように背中に載せ、巨人は走り出した。

―――――
流石のアリシャールさんもマイペースさが崩れてきている。というかあんまり喋らないから私自身もかなり焦っています(笑)

2012/10/07
 back   next 

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -