第一章-07


 アラジンとの再会から一夜明けた次の日の夜、軍議を行っていた天幕の中に負傷した兵が雪崩れ込んで来た。尋常ではない事態に軍内も騒がしくなっている中、警備兵であるという負傷した兵士から黄牙一族から奇襲を受けたという報告に一部の兵士たちから反発の声が上がった。
 話し合いは無意味であり殲滅するしかないと声を上げる呂斎たちに白瑛は真っ向から反発し、もう一度黄牙の元へ行こうと青舜、アリシャールを従え向かおうとすれば勝手は許さないと呂斎が立ちはだかる。
 彼曰く、白瑛の将軍職は現皇帝の慈悲から与えられたものであり、前皇帝の娘である彼女には普通ならば与えられない地位だということ。加えて自分は陛下より彼女の監視を任されている以上勝手な行動は見逃せないということだった。

 ……悔しいが呂斎がいうことは正論であり、白瑛が将軍である以上呑まなければいけないことだ。唇を噛みしめ彼を睨みつけていた白瑛だが決心したように息を付き、口を開く。

「ならば貴方の監視すべき“将軍”としてではなく、“私個人”として交渉に向かいます」
「白瑛殿!」
「……私の父は、侵略した国の敗残兵に暗殺された。いえ、暗殺されたの。――武力による一時の支配はいずれ大きな復讐を招く。真に人の心を掴むもの、それは武力などではなく……崇高なる理想と志のはずよ!」

 白瑛の言葉に彼女が留守中の間は指揮権を呂斎に一時預けるという形で収まったことにアリシャールは不安を覚えながら、黄牙の元へと急ぐ白瑛に従い馬を走らせていた。

 ――集落についた3人を迎えたのは明らかな敵意だった。各々が武装し彼女たちを取り囲むと殺気立った様子で皆が罵声を口にする。昨日一族に起こった奴隷狩りやシャマンへの闇討ちなど当然のことだが3人は知る由もない。弁解しようにもこの場に怒りが充満して、話を聞いてもらえる状況ではないことにアリシャールは奥歯を噛みしめた。
 ……この場を取り巻くルフが黒くなりつつある。悲しみと怒りで膨れ上がるルフの塊に眩暈がする。手に持った剣を強く握り、アリシャールは背中合わせに立つ白瑛へと視線を向けた。
 その瞬間――白瑛の目の前に剣を大きく振りかぶった男の姿が見える。彼女の前に飛び出そうと足に力を込めたが既に遅く、歪な音と共に血しぶきが飛び散った。

「我々に戦意はありません。昨日の事件の真相を探る為にも……交渉の席をどうか!」

 力強い眼差しに男も臆するように後ずさりする。が、後方にいた他の男たちがまた同じ手口だと口にし始める。再び起き上がる罵声の声を一喝する迫力ある声にその場にいた全員がその声の主へと視線を向けた。

「バ、ババ様……」

 声の主は一族の長であるシャマンだ。闇討ちされ負傷されたというのにも関わらず己の足で立ち一族をまとめるその堂々たる出で立ちにアリシャールは思わず息を飲んでしまう。静まり返った中でシャマンの静かな声が響いた。

「見誤るな、己が本当に守るべきものを。その為にどんな戦いをするべきかを……」

 塞がっていない傷から血を流しながら白瑛と対峙したシャマンは膝を折り、彼女へと深く頭を垂れる。そして彼女の口から出たのは、煌帝国の傘下に降るということだった。 
 動揺でざわめく一族たちを一瞥し、シャマンはこうも続ける。

「我が一族は永きに渡る侵略と奴隷狩りで心身共に傷付き果てております。私は、これ以上家族が傷付くのは許せません……故に、一度は御国と戦うことさえも私は考えました。……しかし、ある子供が私に言うたのです。敵国の将たる貴女が、我が一族を滅ぼすことのない信用できる人物じゃと――」

2012/10/07
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