第一章-06


 突然現れた少年、アラジンは白瑛とアリシャールの2人と話がしたくて訪れてきたという。現れ方もそうだが不思議な雰囲気を纏う彼に彼女たちも興味がわいたのだろう、3人で腰を下ろし少しの間話をすることとなった。

「君はあの村の子供ではないのですか?」
「そうだよ、旅人だからね」
「旅人ですか……その年でされているなんて凄いですね」

 白瑛の少し後ろに腰を下ろしていたアリシャールの言葉にアラジンも満更ではない様子で照れたように頭を掻く。癖になっているのだろうターバンを弄る彼の手に視線を向け白瑛が笑みを向け尋ねる。
 
「それは先程の不思議な布ですね」
「これ?いいでしょ!僕のお腹の力をあげると、ゆっくりだけど飛べるんだよ」

 得意げに話す彼にターバンをじっと見つめ、白瑛が静かに口を開いた。

「……それは“迷宮道具”ですね?」
「“迷宮道具”?」
「我が帝国にもいくつか存在する魔法の道具です。天を駆け、大地を穿つ、人知を超えた力を宿す不思議な道具。そしてそれが手に入るのは……“迷宮”から生還した時のみ。まさか君のような幼子が“迷宮”で手に入れたと……?」

 困惑の表情を浮かべる彼女にアラジンから元から持っていた物だと話されれば余計に頭が混乱したらしい。彼の話すことに何か心当たりはないかとアリシャールに視線を向けるが、彼女も心当たりはあるが答えられないと首を振ってしまう。
 “守護者”としての役割を担う以上マギに関する知識はそれなりに持っているアリシャールだが、下手に他者への口外することを禁止されているので答えられなかったのだ。彼がまだマギであるという確証もない。アラジン自身からマギだと名乗って貰うことが一番手っ取り早いのだが、そうもいかないのだからもどかしい。
 ……それにアリシャールが求めるマギが彼だったとしたら、きっと夢の中で何度も聞いた“声の主”を知っているに違いない。だがそれらしき存在も認知出来ない上、彼女が所持する金属器も反応しないのだ。
 少しだけ残念に思いながらも、「君は一体……」と思わず零した白瑛に笑みを向けるアラジンの表情をぼんやりとアリシャールは見つめた。

「おねえさんたちこそ、誰だい?」
「「え?」」
「“軍”の将軍さんと武官さんなのかい?それともあの村を“侵略”する人なのかい?」
「「……」」
「もしそうなら止めてほしいんだ。おばあちゃんが泣いてしまうよ。僕に“家族”を教えてくれた、大好きな、とってもいい人たちなんだ。――殺さないで」

 アラジンの真っ直ぐな声に不思議と背筋が伸びる感覚がする。背筋を正し、胸元で腕を組んだアリシャールが口を開こうとした瞬間――それよりも先に力強い声で白瑛が口を開いた。

「殺しなどしません。決して。……安心しなさい少年、これは侵略戦争などではありません。今世界にはとある異変が起き、危険と戦に満ちています。誰かが治めなければ……正しい力と心を持つ唯一の主が世界を一つに治めれば、誰も死なぬ世の中を作れる……!」

 白瑛の組まれた手が何かに耐えるように小刻みに震えている。真っ直ぐ過ぎる彼女の纏うルフを見つめアリシャールはそっと目を伏せた。

「その為にあの村の方々にもただ、ただ協力して頂きたいのです!私もアリシャールも共にそれに努めようとしています!……どうか信じてください!!」

 白瑛の言葉にアラジンも彼女と同じ様に白瑛の周りのルフはいたいほどに真っ直ぐだと口にする。その言葉に彼女は不思議そうに首を傾げるが、後ろにいたアリシャールはというと彼の言葉に目を丸くし、椅子を倒す勢いで立ち上がった。

「君はルフが見えるのですか?」
「え……おねえさんも見えるのかい?」

 彼女と同じように目を丸くするアラジンに近寄りアリシャールは跪き、貴方はマギ様なのですか?と静かに尋ねれば彼もまた興奮したような面立ちで彼女の肩を掴み矢継ぎ早に質問をしてくる。

「おねえさんマギについて知ってるの?僕もしかしたらマギかもしれないんだ!」

 マギってなに?どんな存在なの?と捲し立てるアラジンにアリシャールも若干引き気味になりながら、まずはマギである証拠を見せて欲しいと落ち着く様に肩を叩けば後方から女中が入ってくる。
 見知らぬ存在に上げた女中の悲鳴に人が集まるでに数秒もいらないだろう。徐にターバンを取り再び夜空に浮かび上がる絨毯に乗りながら、アラジンは笑みを浮かべ彼女たちに手を振った。

「マギの話が聞けないのは残念だけど、分かったよおねえさんたち。今の話、おばあちゃんたちに話してみるね!……僕、おねえさんたちのこと凄く気になるから、また会えると思うんだ!」

 またね!と挨拶も早々に空の彼方へと消えっていったアラジンを追う様に飛び回る大量のルフを見上げてアリシャールは眩しそうに眼を細め、小さく口角を上げた。

2012/10/06
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