第一章-03


「私は煌帝国初代皇帝が第三子……練 白瑛。貴方たちと外交のお話をしに参りました」

 先程の件から暫くし、漸く正式な外交の場が開かれる。張り詰めた雰囲気の中、煌帝国の代表である白瑛が名乗れば黄牙一族たちも近年になって勢力を伸ばしてきた大帝国から王族の直々の訪問に驚きを隠せず動揺の声を上げる。
 だが彼らの先頭に立つ小柄な老婆は只一人冷静さを保ち、威儀を正した佇まいで口を開いた。

「ようこそ姫君。私は黄牙一族、第155代大王が孫娘……チャガン・シャマンと申します。」

 長であるシャマンに対し白瑛が会釈をすれば、後ろに続く青舜とアリシャールも胸元で腕を組み小さく頭を垂れた。しかし彼女の隣に立つ呂斎は将であり上官である白瑛に反抗するように頭を下げず高圧的な態度で黄牙の人間たちを見つめている。そんな彼の様子をアリシャールは横目で一瞥し、武人でありながら何という礼儀知らずだと胸中で毒づいた。
 
「存じております。我が国でも語り継がれる、貴方方の伝説はこうです。――黄牙一族はかつて最も栄えた騎馬民族。初代大王チャガン・ハーンは、魔人のごとき力を手に入れて歴史上最大の帝国を築いたと聞きます。世界統一まであと一歩に迫った。貴方方の国の名前は……“大黄牙帝国”」

 大黄牙帝国の伝説は広く広まっている。アリシャールもまた幼き頃から学術を学ぶ上で何度も聞いた話だ。騎馬を操り絶大な力を誇った彼らの血が脈々と繋がれていることは、目の前にいる男たちの屈強な肉体を見れば分かる。

「しかし、帝国は徐々に弱体化し……近年では“奴隷狩り”の被害にまで遭っていると伺って入ります」

 被害に遭い圧倒的に減ってしまった一族たちには昔のような風格は無い。彼らもそれを重々承知しているのだろう、苦々しげに顔を歪める黄牙たちに白瑛は力強い笑みを浮かべ口を開く。

「しかし、その苦労も今日までです。黄牙の皆さん、我々煌帝国の……傘下にお入りなさい!我々煌帝国は先日、極東平原を統一致しました。今後は西のレーム、西南のパルテピアらの統一、つまりは“世界統一”を志しています!黄牙のご先祖様方と同じ“夢”を……今は私たちが追っているのです!どうか、どうかお力添えを」

 真剣な眼差しで訴えかける白瑛に黄牙の一族たちは否定的だった。永きに渡る奴隷狩りや他国からの侵略に敏感になっている今、直ぐに分かり合えることなど到底無理な話なのだ。
 侵略する気だろうと白瑛へ非難の声を浴びせる若者たちの不作法を窘め、シャマンが時間が欲しいと外交の一時中断を申し出る。アリシャールが小さな声で彼女に声を掛ければ、白瑛も残念そうに眉を下げながらも納得したように小さく頷いた。

2012/10/06
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