イナズマ | ナノ

カトレア

87 真・帝国学園




 愛媛へ向かう途中で出会った真・帝国学園の生徒であるといる人物……不動 明王の案内でアタシ達は薄暗い波止場へと連れて行かれた。そこには学校おろか海以外何も無く、メンバーが何も無いじゃないか。と不満を洩らせば、不動は呆れた様に口を開く。

「短気な奴だな……真・帝国学園ならほら、」

 そう言って不動が指さした場所から突然現れた巨大な潜水艦。中の装甲が開かれ、大規模なサッカーフィールドが顔を出した。その光景にアタシ達が言葉を失っていると、扉が開き中から真・帝国学園総帥、影山 零冶が現れる。
 影山の姿を見た途端、怒りを爆発させた鬼道君は影山の言う帝国学園時代のメンバーを、彼を追う為に中へ入って行った。それを追う様に守も中に入って行けば、塔子ちゃんも走り出そうとする。しかしそれを不動は窘めると、今度はアタシに視線を向けて来た。

「アンタ、雷鳥 飛鳥だよな?」
「……そうよ、だったら何?」

 ニヤリと嫌な笑みを浮かべる不動をアタシは睨みつける。アタシの様子に不動は笑みを深くし、手招きをして来た。

「来いよ、アンタを待っている奴等がいる」

 挑発する様なその声にアタシは小さく舌打ちすると、不動の後に続きアタシは中へ入って行った。


***


「すまなかった……っ、」

 重い足取りで不動よりかなり遅れてグラウンドへ行くと、鬼道君が頭を下げていた。その姿に不動は声を上げて笑う。……鬼道君が頭を下げるその先には佐久間君と源田君がいて、アタシは言葉を失ってしまった。

「そんな……どうして、」
「ほら、やっとお前等が望んでたお姫さんが来たぜ。佐久間、源田」

 不動が声を掛ければ、そこにいた4人全員が此方に顔を向けて来る。覚束ない足取りで彼らの元へ歩み寄れば、佐久間君がアタシの手を掴んで来た。

「飛鳥、俺達と一緒に来い」
「えっ……、」
「雷鳥も“力”を求めていると聞いた。ここなら……俺達と共に来れば“力”が得られる」

 佐久間君と源田君の真剣な表情に、少し恐怖を覚えた。……アタシは力なんて求めてないよ、と小さく零し俯けば、アタシの手を掴む佐久間君の左腕に付けられた物に目が入り、思わず泣きそうになった。そう、以前アタシがあげたミサンガが付けられていたのだ。
 ……ずっと付けてくれていたのだろう、もうそれはボロボロになっていて、きっと源田君も付けてくれているのだろうと思ったら、涙で視界が歪んでいた。

(佐久間君も源田君も前と変わらない、優しい人だ。……きっと何か、原因あるんだ。彼らの優しさを曲げてしまった“何か”が)

 ……この時、まだアタシは気付いていなかった。アタシの心が、歪な音を立てて……崩れて行こうとしていたのを。

 ――毒花の種が、罅割れた


2009/11/23


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