イングリッシュロップ | ナノ






夜景が見えるレストランだなんて、これこそデートじゃないか。
それに予想より大分と高そうな店だ!!
私が普段行かないような店だから妙に緊張してしまう…。
宗谷さんは当たり前のような顔をして、店員と話していた。

「宗谷様、お待たせしました」
「急に申し訳ない」
「いえいえ、偶然ご希望通りの個室が空いておりました。ご案内します」
「何キョロキョロしているんです。こっちですよ」
「は、はい…!」
「嗣村さん、酒は強いですか?」
「弱くはない、ですよ」
「今日は飲み比べしませんか」
「こんなお店で?」
「こんな店でやるからいいんですよ。ちょうど個室ですし」
「はぁ、いいですけど…」
「私だって酒が強いわけじゃないのでフェアだとは思いますが、一応ハンデをつけてあげます。私は先にワインを一本空けてからでいいですよ」
「そんな…大丈夫なんです?」
「ええ、ゲームにならないよりはマシでしょう?」
「はぁ…」

自信たっぷりな宗谷さんに嫌な予感がする。






机に突っ伏している目の前の男性に私は肝が冷える。

「宗谷さん、宗谷さん!」
「なんですかぁ…」
「なんですかじゃないですよ!起きてください!」

揺さぶっても唸るばかりで、要領を得ない。
あれほど余裕な顔でいきなりたくさん飲むから−−なんて今更言っても仕方がないか。

「あなた、強いですね…」
「私、酒屋の娘なんです」
「な…っ!謀られた…」
「あああ、こんなお店でこんなつぶれてるの見られたら恥ずかしいですよ!」
「確かに…。店員を、呼んで、ください…」


お店についているドライバーさんに車を出してもらい、近くのビジネスホテルに宗谷さんを捨てて帰ることにした。もたつく宗谷さんを引きずって、車に乘せるのも骨が折れる仕事だった。

後部座席の隣で寝息を立てる宗谷さんが呪わしい。
私はため息を付いた。

「運転手さん。宗谷さんはいつもこうなんですか?」
『いえ、始めてみましたよ、潰れている姿は。珍しいですねぇ〜』
「そうですか…」
『さ、着きましたよ。領収書きりますか』
「お願いします。宗谷さん!歩けますか?」
「うーん、…」
「宗谷さん!」パーン!
「い!った…なんだ!?」
「なにじゃないですよ!起きてください!」
「え、今、叩いたのか?私を…!?…あ、…いや…ここは、何処、だ?」
「ホテルですよ!」
「ホテル!?破廉恥な!このビッチ!」
「違います!ビジネスホテルですよ!」
「はぁ…?固いベッドは嫌だ…」ぐぅ
「この野郎…!!」

『本当面白い方ですね、宗谷さんは』
「ええ、端から見ている分にはね…」


車はかなり不本意ながらも私の住むマンションについた。
一人じゃ歩けない宗谷さんを運ぶには、ビジネスホテルは恥ずかしすぎたのだった。

『運べますか?』
「申し訳ないですが手伝って貰えますか」
『ああ、はい。任せてください』

なんとか部屋に入れて、ドライバーさんに別れを告げる。
正直な所今日ばかりは見ず知らずのドライバーさんにずっと部屋に居て欲しかった。


この男とふたりきり…しかも私の部屋だなんて、耐えられるだろうか!


「…あれ?…僕…」
「私の家です」イライラ
「嗣村さん?あれ?僕どうしてここにいるんですか…まさか…拉致…」

目が覚めた宗谷さんが畏怖の目で私を見る。
まだ酔っているようだ。寝室、ベッドを背もたれに座っていた私は、予測していない事態に甚だ苛ついていた。

「あなたが潰れてしまったから死ぬほど嫌ですがうちに運んだんですよ。ビジネスホテルは嫌だってぐずりましたから」
「あぁ、そうか…思い出してきた…じゃあこれはあなたのベッドか…」
「酔いが覚めたら出ていけ…いや、出て行ってください。背広とベルトとネクタイはそこにありますから」
「いい臭いがする」
「は、はぁ!?気持ち悪い…ですよ!?」

ぞっとした 。
素直に背筋が凍る思いをした。
部屋が酒臭くなるのも嫌だったし、こんな男を入れたのも嫌だったのに、さらに嫌なことが起きた。

「もう宗谷さん!起きたなら出ていってくださいよ!」
「ここがいい、ここに住む」
「絶対嫌です!第一、固いベッドは嫌だっていってたじゃないですか、どうせ家ではキングサイズのベッドをお母様とわけあって使ってるんでしょう!?」
「僕はどんなイメージなんだ…わかった、起こしてくれ」
「(チッ)…わかりました」

宗谷さんが力なさげに伸ばした腕をつかんで引っ張ろうとしたのもつかの間、逆に引っ張られてしまった。

「ぎゃ、ぎゃー!」
「かわいくない叫び声ですね…」
「ひ、ひえ…」

体を起こした宗谷さんとは逆に、今度は私がベッドに仰向けになる。下半身はベッドからでていて、宙をもがいた。じたばたとしているのを煩わしく思ったのか?私の体をそのまま抱き寄せて足までベッドの上に乗せられる。

そのまま顔が近づいて…。

「や、や、やめろ!」
「何故?」
「ワタシタチハセンパイコウハイ!ノットカップル!」
「…?何言ってるんですか?」
「わー!やだ!やめろー!」

唇が触れそうになって、身構えると、ぴたりと宗谷さんが止まった。

「あ、そうだ。嗣村さんって恋人はいますか?」
「い、いまですか?いないですけど、」
「ふーん。じゃあいいですね」
「………んむっ!」

思ったより、随分と不器用なキスをされた。
慣れていないと言うか、キスを知らないような感じだった。

しばらく口付けて息が苦しくなったのか、宗谷さんが唇を離す。
アルコールはまるで抜けてないらしく、真っ赤な顔に、瞳は涙でにじんで、唾液が口から垂れる姿は、なんだかいけないものを見た心地だった。

「ぷはっ…むむ!酷い…!」
「……嗣村さん…」
「あああもう!早く離してください!これ以上するなら訴えますよ!?」


宗谷さんの焦点の合わない目が、こちらを見据える。
見た目(と仕事)だけが取り柄のこの男の、今にも泣き出しそうな顔が私の心に戸惑いを縫いつけた。


「宗谷、さん…?」
「はぁ…ッ…は…」

荒くなってる男の呼吸に覚えがある…。
熱い宗谷さんの指が私の手に絡んで、確かめるように握られる。
唇が私の耳元へ寄せられて、そうすると浅い息遣いがよく聞こえた。
同時に、足に違和感を感じた。

驚くべきことに、反応しているらしき宗谷さんのモノがスラックス越しに、私の太ももにグイグイと押し当てられている…−−!

思わず彼の顔を見ると目に涙が溜まっている。
それは悲しみで溢れたものじゃなくて、緊張や、期待や、興奮が混ざって生まれたものだと不思議ときっぱり思いたった。

決壊が破れた涙が一筋蔦たったときに、はじめて感じる感情が私を支配した。



「(この人を、抱きたい…!)」




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