メガネくん | ナノ








「あ、あの…会長様来ませんね」
「ですね。変だなぁ、送れるような人じゃないのにね」
「ハハハオカシイナァ」

ピロリロ

「あ、メールだ。…あぁ…急に生徒会の仕事が入ってこれなくなったって」
「ソウナンデスカ?ザンネンダナァ」
「…?嬉しそうだね」
「マ、マサカ」

俺は今猛烈に感動している!!!

目の前に恋い焦がれた女性がいるのだから!!!

「ていうかレストランのつもりが居酒屋になってごめんね」
「大丈夫です。行くはずの店が満席とは思ってなくて…入れなくてすみません」
「謝ることないよ。ねぇ私お酒頼んでいい?せっかくだからご飯食べようか、お姉さんがおごってあげる」
「えっ!…あ、いや、…嬉しいです」
「店員さーん!生ビールと…、君は?」
「あ、じゃあ、ウーロン茶で」
「あとは適当に食べ物持ってきて、あ、この子若いから、いっぱい食べるよ!…じゃ、よろしくね!」

『ハイ!ショウショウオマチクダサイ!』

そうして運ばれてきた生ビールのジョッキをあっという間に飲み干したかと思うと…

二杯。
三杯。
四杯。

居酒屋自体が混んでて少し遅れてるとはいえ料理が出てくるころには六杯目のビールに差し掛かっていた。

「あの、あの…薫子さん。飲み過ぎではないですか?」
「へええ?全然、いけるよお」
「(大和撫子ってビールのむっけ?)」
「あぁ、今、司くん引いたでしょ!」
「そんなまさか。けれど顔真っ赤ですよ、本当に大丈夫ですか?」

運ばれてきた食事もそこそこに俺の静止も聞かないで七杯目のビールがまたオーダーされる。
たくさんテーブルに並んでる飯を消費するのは俺の役目になって、そう考えても一人分には多すぎる量をもくもくとこなす俺の傍らどんどん酒が進む様子の薫子さんだ。

世間話に寄れば彼女は出版社に努めるOLで、いわゆる編集という立場にいるらしい。
身ぎれいなのはきっと彼女がファッション誌を作る場に身をおいているからだそうだ。
俺はそんな彼女の貴重な情報も全然入ってこない。目の前で浴びるように酒を飲む姿に驚きを隠せないからだ。


大和撫子ってなんだろう…なんだんだろう、俺!
自分をしっかりもて俺!
目の前の女を見ろ!

清楚可憐な…。


清楚?可憐な?女が?ビールを、飲んで、飲んで…。。。



これが日本のヤマトナデシコだっていうのか?










「…んん。……?」

カーテンの隙間から漏れる朝日が眩しい。
身を起こすと、俺の家じゃない事に気がついた。

「はっ…!?ここは、ええっと…?う…!頭…痛い…、気持ち悪い…なんだろ」
「むにゃ…」
「!?」

飛び起きた俺だったがメガネがないと視界が不明瞭で何も見えない。
慌てて近場を手探りで探すと床に無造作に落とされたメガネを拾った。
それを慌ててかける。いや…かけなきゃよかった。


さっきまで俺が寝ていたベッドには女性が(おそらく全裸)で夢の中にいる!

で!

俺は!

服を着てない!

ここはどこだ!


周りを見渡すと下品な装飾、ピンクのカーテン、回転するデカイベッド、知識のない俺だって分かる!

ラブ・ホテル!!!!!!!だ!!!!!

この俺の勢い!!!!!

動揺が伝わるだろ!!!!!

人生初ラブホだ!!!!

わーい!!!!

「わーいじゃねえよ!!!!!」

−−ガンッ!

「いってぇ…!!」

思わず大声を出した俺が反射的に殴った壁の音がぐわんぐわん部屋に響く。
あぁ、いや、これはきっと部屋じゃなくて頭に響いてるんだ。
壁の硬さに勝てなかった拳から血が出てる。

というか、

吐きそう…!


トイレでひとしきりリバースした俺だったが部屋に戻っても状況は変わってない。
とりあえず財布やら貴重品を確かめたが手を出された形跡なし。(美人局じゃなかった!いまのところは!)

「よし、とりあえず逃げよう!」

床に散らかった服…というか廊下から散らかってる!多分部屋に入るなり徐々に脱いだっぽい。襲ってくる自己嫌悪感に俺は負けない!

服を半分ほど着た頃、ベッドの女性が起き上がった。

「う…!」
「んん〜!はぁ…朝?なんだ八時か…。…あれ」
「お、おはようございます」
「司くん。おはよう!」
「は、はい…」

意外にもハツラツとした女性(全裸)の挨拶に戸惑う。
胸だって隠さずに伸びをするから目のやり場に困る。

「あれ。どうしたの照れたふりして」
「へ?いやぁ〜ええっと…」
「昨日は楽しかったね!司くんとっても早くてびっくりしたよ!でも回数あるから!若いっていいね!」

この時、俺の人生が、価値観が、全てがぶっ壊れ無に帰したことを肌で感じました。

後日ホテルの従業員に聞いた所、俺は訳の分からない叫び声を上げて上半身裸のままで携帯と財布だけ持って外へ飛び出していったそうです。
(シャツなどは制服だったので取りに戻らさず得なかったのです。スペアだけじゃ心もとないし新しく買うのは俺の主義に反しました)







『なんだ、結局ベッド・インしたんですか』
「水無月会長!!!そんな言い方はやめて下さい!!」
『よかったじゃないですか、君は童貞(チェリー)だったんでしょう?歳上のお姉さんに手取り足取り』
「よくないです!!!俺の純血が!!!奪われました!!!婚前交渉をするような女だったなんて、俺は…おれはあああ」
『落ち着きなさい』


翌週、生徒会室で俺は水無月会長に慰められていた。
その頃にはすっかり頭は冷え、冷えに冷え…。
現実と直面せざるを得なかったのだ。


『それで、ヨかったんですか?』
「覚えてないんです」
『なんと』
「全く、記憶に無いんです。確か俺が居酒屋で間違ってビールを飲んで、なんかフワフワした心地になって、それからよろけた俺がジョッキを倒して、薫子さんの服がびしょ濡れになり、それから記憶がありません」
『それは…一番大事な部分ですね』
「そうなんです!!」
『どっちが誘ったんだと思いますか?』
「へ?」
『相手?それともあなた?』
「ええーっと…」
『あれからあなたに彼女から連絡もないんですよね』
「あぁ、確かに最初に連絡先交換したけれど…無いです」
『…あなた、ヤリ捨てられたんですね』
「へ…?」
『体の良い性欲のはけ口にされたんですよ。でもまぁラッキーってことでいいんじゃないですか』
「な…!俺が!ヤリ捨て…られる…だと…!」
『前向きに捉えるべきです』

まさか俺が…そんな…そんな事態に陥るなんて夢にも思わなかった!
俺はあのヤマトナデシコのかわを被った淫乱ピンク(桃色の服を着ていた)に侵され!

捨てられ!

尊厳まで奪われ!!!!


「許せない…!!!!!!」
『それでこそ司くんです』


文句を言わねば気が済まない!
俺は打算的て狡猾で、中学の卒業文集には「将来汚職しそうな人ナンバーワン」に選ばれるほど傍から見ても欲望に忠実な人間だったはずだ!

ああでもまだ全てが夢だった説も生きてる…生きてるし…!

なんにせよだ。

今から彼女を呼び出して、とにかく事の真相を聞かねば落ち着かないんだ!



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