メガネくん | ナノ







かねてから守銭奴だとか金が恋人だとか、さんざん揶揄されてきた俺にも、ついに!



好きな人が出来ました!



相手は俺のバイト先(カフェ・マンハッタン)の常連である女性だ。
初めて見た時からタイプだとは思ったがここは俺だ、一筋縄ではいかない。
席に案内されて、座って、コーヒーが運ばれて、ケーキも運ばれて…。
そのときの仕草一つ一つをチェックして俺はこの女性が俺にふさわしい大和撫子だって理解した。

おっと、その噂の女性が俺のレジに会計をしに来たじゃないか。

「ケーキセットと朝食モーニングで1200円です」
「はい」
「ありがとうございましたー」
「美味しかったです、ごちそうさまです」

−カランコロン…


見たか。

ごちそうさまです、と言った。なんて礼儀正しいのだろう!
女性はおそらく年の頃は20代半ば…ちかくの出版社に務めているらしい(よく出入りをしているのを見た。ストーカーではない)。長い髪が女性らしい。カジュアルスーツからは清廉さしかない。


というわけでどうしても付き合いたい。どうしても!付き合いたいんだ!


「どうしたら良いですか、水無月生徒会長」
『ベッドインですね』
「そうなんですか!?」




▽よくいるメガネくん





簡潔な答えをくれるこの人…水無月礼二生徒会長はその名の通りうちの高校の最高権利者だ。
頼れる先輩と俺が認めた数少ない男の一人だ。彼がいたから俺は生徒会に入ったといっても過言じゃない。そう、彼がいたから俺もコンタクトから眼鏡に変えた、それほど影響力のある素晴らしい人だ。

『私ならベッド・インします。考えてもみなさい、いざ付き合って夜を共にしたらガッカリ…なんて事は大人の恋愛の中では日常茶飯事ですよ』
「はぁ…そうですか…」
『ですからとりあえずベッドインしてみたらどうですか』
「簡単に言いますが、俺は付き合ってもないのにベッドインするような女性とは無理です」
『…』
「…」
『なるほど…そういう考え方もありますね』
「はい」
『頭の硬い君らしいです。もっと柔軟性を持たないと』
「そうでしょうか」
『そうです、お友達にも相談してみたらどうですか?』



という生徒会長のアドバイスのもと、最近彼女が出来たとはしゃいでる友人の隼人に意見を伺うことにした。


『ええ!?お前に、好きな人!?』
「そんな驚くことないだろう」
『だってお前ってば「女は金食い虫」だって常日頃言ってるから』
「場合によるんだ。俺は素晴らしい女性と出会った」
『へえ〜…。け、ど!最近可愛い〜彼女が出来た俺に恋の相談なら任せてよ!』
「あぁ、あんまり期待してないから簡潔に頼む」
『俺的には、お前と付き合う女はかわいそう!』
「は?」
『だって、友達より家族より金が好きって普段から言うような奴は無理。で、お金が勿体ないからって理由で彼女を作らないはおろか俺を含む男友達とさえ遊ばないようなストイックなやつはやっぱ無理!』
「金は大事だろ、金は」
『常軌を逸している!金のために滅茶苦茶バイトを掛け持ちしてるのもなんかいや!』
「そこは褒めてくれてもいいんじゃないか?」
『ここまでは内面の話だけど外面の嫌な点もある!』
「まだあるのか?」
『今お前の話してるんだよ?まだあるお前サイドにも問題があると思わない?』
「どうした今日お腹痛いか?遠慮をおうちに忘れてきてるぞ」
『…じゃあまぁこのへんでやめとくけど。なんでもいいけど、週末のクラスで行くカラオケお前も来いって話!つまんないじゃん?』
「行かない。金がもったいない」
『(こいつ俺のアドバイス聞く気がないな…)あ、そうだ、西っちょがお前を呼んでたぜ』



担任の西之園先生が俺を呼び出すなんてどういう了見だろう。
結局のところ隼人からは使えるアドバイスはなにももらえなかった。
西之園先生なら…あるいは。


『おうおう、よく来たな』
「先生、いつも全裸で風邪引かないんですか」
『バカ言え、この白衣が見えんのか』
「いや…だから、その下…」
『お前だけだけだったわ。うちのクラスの中で、模試で全国100入るの』
「そんなの当然ですよ。家から近いという理由だけでこの高校を選んだんですから、周りの人間とはレベルが違うんです」
『それならなんで普通科じゃなくて理数受けなかったんだよ』
「受けました」
『…』
「緊張に…弱いのです…」
『あぁ、知ってるけどな…。伝説になってるから。腹痛で午前で退出したのに、理数は落ちたけどそのまま下って普通科は受かったって』
「ところで、俺好きな女性が出来ました」
『なんだよ。いきなり』
「現在これこれこういう状況なのですがアドバイスいただけませんか」
『状況も何もまだ何も始まってないじゃないか』

西之園先生が眉をひそめる。この人の返事にはどこか嫌味な部分があるので苦手だ。人のウィークポイントを確実についてくる。どうせ夜もそうなのだろう。

『ま、俺から言えるアドバイスはベッド☆インってことかな』
「ふりだしだと…俺はなんのためにここに来たんだ」



西之園先生は使えない。じゃあもうあの人に話を聴くしかない。
あの人…エロ過ぎる保険医綾川先生だ。


『珍しいね、君が僕の城に来るなんて』
「おかしいですね保健室だと思って来たんですけれど」
『それ、別名だから間違いじゃないよ』
「ですか…」
『ところで僕に恋の悩み相談に来たんじゃないのかい』
「!どうしてそれを!」
『顔を見れば分かるよ。恋に悩んでますって書いてある』
「まさか、そんな…」
『さ、座って。カウンセリングを始めよう』
「ベッドインって言ったら俺帰りますよ?」
『あぁ…そんな雑なアドバイスをするなんて水無月生徒会長と西之園先生でしょう。大丈夫、僕はもっと患者に寄り添った答えをだすからね。ベッドインなんて…堅実で真面目でしっかりものの君にはとても無理でしょう』
「先生、俺なんだか安心しました」
『さぁ、悩みを聞かせて』


紫色の綾川先生の髪が風もないのにゆれて、オッドアイの瞳が見える。
この人なら俺の望む答えをくれるかもしれない!


『なるほど、状況はわかった』
「(ゴクリ…)」
『とりあえず仲良くなるところから始めるべきだね』
「仲良く…?」
『そうだよ。当たり前の話だけどね。いきなり告白したってそんなの成功するわけないでしょ?まずはもうお互いこれはほぼ付き合っているのでは?って思う段階まで親しくなるんだ。後は流れに身を任せればいいんだよ。ベッドインだね』
「今日初めて適切な修飾をされたベッドインを聞きました」
『どうだい?僕のアドバイスは役に立ったかな?』
「というかそれはわかってるんで親しくなりかたを聞きたいんですけど」



『じゃあ俺に任せなよ』


『!』
「!」

急に話に入ってきたのは保健室でサボりをしていたミノルくんだ。
俺とタメだが別のクラスの男で、やたら女子に人気がある。
けれど俺はそれを潔しとしない。というのもミノルくんは男からの人気は一際ない。
なぜかというと女子には優しいが男には虫けらみたいな扱いをするからだ。
それに顔が良くて家が金持ちでしかも俺と同じクラスのチカちゃんって生徒を家でメイドといてこき使ってるらしい。俺達が平凡な高校生活を送ってる側からこいつはそんなエロ漫画みたいなことをし…

『司、今俺の悪口を考えただろ』
「(なにげに俺の名前今日はじめて呼ばれた)」
『女なんて皆、にこにこして近づいててって、…えっと喫茶店だっけ?なら適当に声かけて相席するだろ、んで目をじーっと見てやればヤレるよ』
「お前最低だな」
『簡単だって。俺の経験上、笑いながら近づけばすぐ警戒解いてくれるよ。しかも歳上なんだって?ならさらに性交率は上がるね』
「成功率…そんなふうに女性と向き合うのは下衆のすることだ」
『それに、やらなくともさ、デートの切っ掛けにはなるんじゃないかな?ね。綾川センセ』
『そうだね、ミノルくん』
「まぁ、確かに…まず知り合わねばならん…」

一理ある。この最低なたらし野郎の性格をいつかチカちゃんが変えてくれることを祈るばかりだがそれはおいといて一理ある。

『司くん、ちょっと先生に笑って見せて』
『そうだよ、いつもむっつりしてないでさ。俺みたいににっこり笑ってみなよ』

「むむむ…こうか?」ニコリ

『あ…』
『…』

「どうした?」

『ごめん、俺のアドバイス役立ちそうにないね』
『司くん、ミノルくんのアドバイスは忘れるべきだね』

「どういうことだ」

『…』
『…』

「返事をしてくれ!」








ついに打つ手がなくなってしまった。
結局のところ頼れるのは俺自身ってことか。
こうなってくると上の会話まるまる無駄足だったんじゃないかって思わされる。
俺が主人公のドラマをつくるとしたらこの相談シーンは全カットだな。

とにかく。

清楚可憐な大和撫子は今日も俺のバイト先へ足を運んでくれる。
ベッドインだなんて下品なアドバイスに晒された俺を癒やす唯一の女神…。

『なにぼーっとしてる?早く会計をしてくれ』
「!あ、ああ、すみません」
『…む、君は見た顔だな。確か水無月の配下の司…だったか』
「え…あ!会長様!」
『久しぶりだな、たまたまよった喫茶店だったが、そうか…君がバイトしているのか』


会長様は水無月生徒会長とライバル関係にある他校の生徒会長だ。
過去学校間交流の際、会長様とは何度か顔を合わすことがあった。


『何?恋の悩みだ?』
「はい。実は先ほどお帰りになったお客様とどうしても親しくなりたいのです」
『ふむ…確かに君にはもったいないくらいの美人だったな』
「でしょう!」
『それで、ベッドインしたいのか』
「会長様まで、やめてください」
『ふ、少しからかっただけだ。そうだな、セッティングしてやろうか』
「え!?」
『あの女性…薫子って言うんだが、うちの高校のOGでな、私も何度かあったことがあるんだ』
「いいんですか!(薫子さん!可愛い名前だ!)」
『あぁ…そうだな、単なる食事会という名目でどこかレストランかに彼女を連れだすだろう、そして私はどうしてだか用事が入って現場にはいけなくなってしまう。残された君と彼女ははにかみ合い親睦を深める…どうだ?』
「完璧です!会長様!」

すごい!完璧な手順だ!わかってる!
わざわざ「様」を付けられるのもわかるほどの手際の良さ!
今まで俺が相談したどの男よりも頼りになる!!!!

『水無月によろしく言っておいてくれ。あと、君の電話番号も教えろ』





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