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AFTER2 長い休日 a




今まで俺が望んだものは、全部手に入らなかった。


金も名誉も地位も女も――――夢も。




▽CHOCOLATE LIFE AFTER 2
昴の長い休日(強制生)




「寧々さん、コーヒーでも入れようか」
「…んん…!大丈夫です!」
「しかしそれでは働きづめだ。休憩した方がいい」
「……、もう少し…切りの良いところになったら…」

とか言いながら寧々さんはもう何時間も机に向かっている。
彼女のデスクには分厚い辞書が何冊も置かれていた。ところせましと嵩張るコピー用紙には英語がずらっと並んでいる。

今日は俺の休みの日。

だが寧々さんは仕事が佳境だそうだ。彼女はこう見えても翻訳家で、締め切り間近はいつもこんな風に辞書を片手に修羅場になるという。
黙々と作業に追われる寧々さんを後ろから眺める。俺はすることもなくて、彼女が以前翻訳したという本をパラパラと巡った。けれどどれも理解しがたく。結局仕事をしている寧々さんの邪魔をしないようにぼんやりするのだった。

俺が家に来たのが朝11時で、今はもう夕方の五時だ。その間も寧々さんは飯も食わず飲み物もそこそこで英字と睨めっこだ。
そんなことばかりしているから貧血になるんだと呆れるが仕事だから強くも言えない。
俺としては仕事をやめてもらっても構わないどころかむしろそうして欲しいっていうのが本音だ。…しかしそれは流石に勝手だと自分でわかるから寧々さんには話せない。

「昴さん、」
「ん?どうした」
「すみません、せっかくのお休みなのに」

寧々さんが作業の手を止めないで俺に話しかけて来た。

「いいんだ、俺が勝手に来たのだから。邪魔なら言ってくれ」
「それは全然!大丈夫ですけど…、勿体無いです、なにもしない休日なんて」
「なにもしていないわけじゃない。寧々さんを見ている」
「な…っ!」

寧々さんが振り向く。
もちろんさっきの言葉も嘘じゃないが、振り向いて欲しくて言ったから成功だ。

「やった。顔が見れた」
「昴さん〜、そういうのやめてください、気が散ります!」
「わかったわかった…」
「もう!…今一応一通り終わったんで、見直ししたらご飯食べましょう!」
「ああ」

困ったような、怒ったような、喜んでいるような、きっと全部が混ざっているのだろう。寧々さんが俺をたしなめて仕事に戻る。

それを見てちょっと…手を出したくなった。

―ちゅっ…
背後から忍び寄って、首筋にキスした。

「わっ!?仕事中です、から!」
「続けていろ。俺のことは気にしなくていい」
「んな、こと、言われても…!」

寧々さんは机に視線を戻す。背中に近い部位に痕をつける。派手な音を立てて吸い付いて、寧々さんの集中力を奪う作戦だ。

「んん…、もう……!」
「ふ…、怒ったか?」
「もう少しで終わりますから、おとなしくしていてください!」
「ん…わかった」ちゅ
「(だー!わかってない!)」

いい加減怒られそうなので、渋々元の位置に戻った。俺に翻弄されながらも仕事を続ける様には顔がゆるむ。


俺は幸せ者…これは間違いがない。

今の所は。


やっぱり時間を持て余している俺は、行き道に買ったスポーツ新聞に手を伸ばす。その二面にはデカデカと知った顔がプリントされていた。

「(あいつ、コーチになったのか)」

昔、一緒に学び切磋琢磨した男が大きな記事になっている。コーチといっても俺みたいな一般のジムのじゃない、もっと専門的な…まぁそういう類のコーチだ。見出しには”若きコーチの一日に密着”とある。現役を引退しても結果を残していればこんなにも道はあるのか…。そうだ結果、何事も結果が全てだ。特にこの世界では……。
俺はこの業界を愛していたけど、ついに俺が愛されることはなかったと、また思い出してしまった。


俺の心を支配するある感情と葛藤するうちに、いくらか時間が経ったらしい。寧々さんの高い声で我にかえった。


「よぉっし!終わりました!」
「あ、あぁ。お疲れ様。ちょっと休憩するといい」
「大丈夫です!ご飯、食べに行きますか!」
「…ふ」
「昴さん?どうしたんですか、笑って」
「いや。随分とバレバレな無理をするものだと思ってな」
「え!ーーきゃあ!」

寧々さんが好きであろう、いわゆるお姫様だっこの形を取る。一瞬体をばたつかせた寧々さんだったが、すぐに俺の首に手を回してきた。

「昴さんっ!?」
「今日はこの家で、一緒にいよう」
「え、ええ、でも…」
「俺は別にどこにも行かなくていい。あなたといれたら、それでいいんだ」
「…あ、あの」
「ん?どうした?」
「昴さんにそう言われるとなんかドキドキします!」
「…。もっとドキドキ、させてやろうか」

書斎から出てリビングに入る。
ソファに寧々さんの背中を下ろして、覆いかぶさった俺はそのままキスをした。

「んんっ!」
「…はっ……、寧々さん…」
「ぷは、…ッあわ、わ、えっちするの?」
「…嫌か?」
「いい、です、けれど…」

手のひらをシャツの下にねじ込んだ。ゆっくり肌に触れながら、首に耳に鎖骨にと唇をつけて音を立てた。

「…はぅ……」
「ん、ん…っ、今日は、寧々さんは何もしなくていい…」
「へ?」
「疲れているだろう。俺が全身を舐めてやる、ただあなたは俺に身を預けていればいい」
「え!いや、大丈夫です!よ!」
「遠慮するな」
「遠慮っていうか…」
「…。俺がそうしたいんだ」

じっくりと寧々さんの肌に舌を這わせた。上の服は全てとっぱらって、また鎖骨を軽く吸う。それから腕に流れて…、指先まで。

「あ、あ、昴さん…っ」
「どうだ。気持ちがいいか」
「…っは、はぁ、…」こくん

手のひらだって舐めて、吸って、口付けて…そんな俺の姿を寧々さんは食い入るように見るから嬉しくなる。指の付け根だって感じるように、丹念に。

「…んむむ…!」
「どうした、寧々さん。もっと他の場所もしてほしいか」
「んゃ、ぁ、…――えっと…!」
「言いたいことがあるなら直ぐ言ってくれ。俺はあなたが望むことをしたい」
「…あわわ…」
「手の次は、足か…」

寧々さんの足を持ち上げる。柔らかい体はこういう時に役立つから、俺の指導は無駄じゃなかった。今度は足の指から始めて、下っていこう。

―ちゅ、…っちゅ……

寧々さんは両手を自分の顔に当てて、目の部分だけは指を開いて見えるようにしている。真っ赤な顔は感じているからか恥ずかしいのか…どっちだって構わない。可愛いのには違いがない。

太ももまで辿り着いた俺は、もう片足も同じように持ち上げた。

「ひゃ、…っあ、昴さん、もう、いいです…!」
「…。良くなかったか?」
「いえいえ!その…」
「なんだ」

寧々さんが言葉に詰まる。俺はちょっと不安になる。 さすがに大変な仕事を終えたばかりの彼女に対して性急だっただろうか。けれどそんな俺の想像に反して寧々さんの言葉は、

「昴さんだって気持ち良くないと嫌です…」
「…あなたが良いなら、俺も良いんだ」
「そうじゃなくて!そうじゃなくて…」

起き上がった寧々さんが俺の手を取ってキスをした。そこが急激に熱くなる。予想外の出来事に、変に鼓動が早まった。

「私も昴さんの事を好きって、伝えたい…です」
「そう、か…?」
「あ、もしかして、迷惑でしたか?」
「まさか…」

俺がしたのと同じように指先から手の腹まで寧々さんの小さく赤い舌が滑っていく。俺は自然と生唾を飲んだ。一生懸命舐める様っていうのはこんなに人を欲情させるものなのか。

「ふふふ!気持ち良いですか?」
「あぁ…」
「あの、今日待っててくれてありがとうです!」
「ん、そんなの…別になんでもない」
「(なんでもないわけないんだよなぁ…)
 昴さんのそういうところ、大好きです」
「…ッ」

臆面もなくそう言われて、俺はいよいよじっとしていられない。

「俺もあなたが好きだ…」
「昴さん?」
「あなたが思っているよりずっとあなたを愛してる…」
「わ、わぁ…!(わー!)」
「どうすればこの気持ちをわかってもらえるか、ずっと考えていた」


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