ブラックお屋敷 | ナノ




7 次男 医学部薬科大学生

 
*次男サトルの人体実験

オブジェを壊したのが木曜日。
三男ミノル様を朝起こし、学校を終え、夕食時に兄弟の皆さんとの正式顔合わせをし、後は雑務をこなした金曜日。
そして今日は土曜日…昼。

『…という感じに風呂は掃除致します。まだあなたの所属や担当は決まっておりませんが、とりあえず屋敷の仕事を専門でなくとも一通りは出来るようにならないと』
「わっかりましたー…」ヘトヘト
『日本語が乱れています!』スパーン
「ごめんなさーい…」
『伸ばさない』スパーン
「ひぇ…ごめんなさい」
『宜しい。やっと昼食ですね。午後からはサトル様との交流の時間になります』
「交流?」
『サトル様がぜひあなたとお話ししたいと』
「私と?」
『サトル様は…夜な夜な謎の薬を開発することを生き甲斐になさってます。それは決して邪魔せぬようにしなさい。投薬されますよ』
「と、投薬!?…わかりました」
『きっと何か頼まれ事をされるでしょうが…サトル様に粗相がないようなさい。ここを追い出されたらあなたはどうやって借金を返済するのですか』
「はい…」
『(ハァ…)』





『サトル様、南郷とチカでございます』
「入れ」
『はい、失礼します。チカ』
「失礼します」


サトルの私室は、無機質で、生活雑貨がほとんど何もない。
ただ白い部屋の真ん中にベッドと、そのサイドにチェストがあった。

白いシャツに黒いスラックス、モノトーンの部屋はなんだか恐ろしい。その主のサトルといえばいつも少し眠たげで、ぼんやりとした印象で、何考えているかわからない風でなんかちょっとやっぱり怖い…と、チカは思った。

「サトル様、交流と言うのは」
「これを飲んでくれ」
「…え…」

部屋の隅の冷蔵庫からおもむろに出されたのはコップに入ったピンクの液体…と、ターコイズブルーの液体。
思わずチカは南郷の顔を見てしまう。

『こちらは、何の薬でしょうか』
「飲んだら解る」
『(怖い…)』
「(怖い…)」

「…嫌なのか?」
『まさか…』
「まさか…」

サトルの真っ黒な瞳が鈍く二人を捉えている。

「南郷、手が止まってる。これはお願いなんだ。頼む」
『…はい』
「嫌なら、命令に変えるが」
『(ううぅ…畜生が…)』グビッ
「南郷さん!」
『さぁ早くチカも飲みなさい』
「お前、飲まないのか」
「…う、…は、はい」ゴクリ

南郷に倣ってチカもピンクの液体を目を瞑って飲み干した。
体に染み渡る冷たい液体…、意外にもすんなり飲み込めた。

「美味しいー!」
「そうか。良かった」
『……(……)』ダラダラ
「南郷さん?」
「南郷、どうしたんだ」
『いや、何でもありません』ダラダラ
「凄い汗ですよ!?」
『大丈夫…冷や汗ですから』

自分とは違って南郷は全身から汗をかいている。
チカは不思議に思って彼の体に触れると、びくりと反応した。

「サトル様、一体何の薬何だったんですか?」
「あぁ、南郷のは知り合いの博士の新作薬品らしいんだ。シルデナフィルを使った通称゙夢の薬゙だそうだ」
「シルデナ…?ってどんな薬なんですか?」
「さぁ?肺高血圧症の用途に使う薬品だが、貰ったから使ってみた」
「ええー!?」

『シルデナフィル…商品名バイアグラ、ですね。サトル様、失礼ながらこちらの薬の用途はご存じですか?』
「バイアグラ、成程ED治療薬か…。だからあの男はにやにやして俺に渡してきたのか、」
『そんな不確かな薬を私に飲ませたんですか…!?』
「大丈夫、信頼できるやつだ」
『…私、おいとましたいんですが』
「それはならない」
『…え、』
「どうせならきちっと効果を見たい」
『!(カエリタイ)』
「わ、私の飲んだものは何ですか?」
「ん?あぁ、お前のは……」

サトルが言い終わる前に効果が現れたらしい。
チカの視界がぐにゃりと歪む。体の自由が聞かなくなったと思うと――。

「フニャッ」バタン

『!?チカ!?』

「むにゃ…」グウグウ

「睡眠薬だ。昼寝に使える睡眠薬を開発してみたのだ。こっちが本命」
『こ、これ、いつ効果が切れるんですか』
「それを知る試験だ。一時間のはずだが、実際はお前が見ておけ。その為に呼んだ」スタスタ
『え…わかりました』
「…後でまた来る…」バタン―ガチャッ
『あ、ちょっ…!』

戸惑う南郷を置いて、サトルは部屋を出て行ってしまった。
廊下から声が聞こえる。

\あっサトル兄さん!今暇?/
\ん、ミノルか。なんだそれは/
\プリン貰ったんだ。食べる?/
\食べる/

ミノルと和やかな会話をしているようだが南郷はとてもそれどころではなかった。

『…(鍵があかない)』ガチャガチャ
「…スピー…」グウグウ
『(のんきな顔で寝やがって…しかし、バイアグラは性的興奮を助長する薬。興奮しなければ辛くないだろう)』

『…』ジンジン

『(…あれ?)』ジンジン






50分後

扉が開くと、おそらくおやつを平らげたサトルが入ってきた。


『お帰りなさいませ。チカは熟睡しきっているようです』
「そうか。後10分ほどで起きるはずだ」

サトルは部屋のはしに立て掛けてあったパイプ椅子をベッドの脇に設置して、気持ち良さそうに眠るチカをまじまじと観察した。
南郷はきつくはりつめた下半身を耐えつつもサトルの側でお伺いをたてる。

「お前なんか顔色が悪いぞ」
『はは…(しね)』
「…ムニャ……、…ンン」ムニャリ
「む」
「ファー……ん?」パチクリ
「起きたか」
「あれ?私何を…あっ!」

目が覚めたチカがきょろきょろと辺りを見渡す。
状況がすぐ思い出されたようで、南郷の顔を見た。

「一時間もたないか。まぁ誤差でいいだろう」
『…では、用事はお済みでしょうか』
「まぁ待て…慌てるな。これから後一時間で、睡眠薬がどれ程深い眠りに至るかを試す」
『えっ』
「ふぇ…?サトル様?」キョトン
「南郷、チカと同じ薬を飲め」
『私ですか!?』
「人に手荒な真似はできないよ……といつもミノルが言ってる」
『しかし』
「南郷、命令だ」

サトルがコップを南郷の頬にぴったり付けた。
冷えきったコップは、汗をかいている南郷の肌を冷やす。
彼は今、冷や汗の方をかいていた。

『……』ガタガタガタガタガタ
「そんな怯えるな、死ぬ訳じゃない」
『…ですが』
「飲め」
『く…っはい』ぐびっ

一気に飲み干した南郷が急にベッドに倒れこんだ。

『…フニャッ』ドサッ

驚いたチカが彼の体を揺する。

「南郷さん!?サトル様、これは一体何の薬だったんですか!?」
「睡眠薬だ。これからあらゆる方法で南郷を起こす実験をする」パチパチ

『…グゥ』

「な、なるほど。起きませんね…」
「チカ、起こしてくれ」
「わ、わかりました!」バチーンバチーン

『ぐぅ』

「起きませんね…」
「みたいだな…。頑張ってくれ。ところで気分はどうだ?」
「えーと…よい睡眠をした後の目覚めにある、スッキリしたような感じ…です」バチーンバチーン
「そうか」

いくらチカが手をあげても南郷はぴくりとも動かず寝入ってしまっている。
今が好機とチカの手にも力が入るが、まるで気が付かないようだ。

『ムニャ』

「…起きてくださーい!」サワサワサワ

『…』すや

そこで、チカは南郷の下半身がズボンの形を変えていることに気がついた。

「…!(ちょ、超勃ってる!」まじまじ
「…何をしている」
「え、いや、あははは、起きませんね」
「…コーヒー飲みたい」
「あ!はい!いれて参ります」

人の下半身をまじまじと見ていたところを見られてちょっと焦ったチカがぴょんぴょん走って部屋を後にした。



「行って参りました」ガチャ

暫くして戻ってきたチカの手には温かい煙が立ち込めるコーヒーがあった。

「ご苦労」ごくり
「はい。南郷さんは起きてませんね…」

口をつけたコップをチェストの上に置く。
それからチカを起こしだした南郷をぼんやりと眺めて…また一口、口に運ぶ。

「…?」
「あれ、サトル様、それ」
「ぅ……!?」

味が違うと気がついたのは、5口目を飲んでからだった。
サトルが間違えて飲んだのは南郷に投与したバイアグラのコップ、だった。


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