幻影旅団の11番
拘束され、これからいかにも拷問に近い尋問が始まる雰囲気であるにも関わらず、11番の男は冷静だった。

「今、何時だ? オレはどれくらい寝てた?」

完全に舐められた態度に、ダルツォルネは怒りで震えている。

「立場がわかってないようだ。質問はこのオレがするんだーーー!」

ダルツォルネが刺そうとした刀はあっさりと折れ、男は自分達はお宝をまだ盗んでないと話した。
そして、誰にでも間違いはあると言いながら不敵に取引を持ちかける。

「命は助けてやるから、今すぐこれを外せ」

「客はどうした? 我々の仲間がそこにいた」

クラピカが冷静な口調で問いかける。

「そいつは残念だったな。殺した。そういう予定だったんでな」

ドスッ――

「貴様等の勝手な行動や予定でどれだけの命を奪い、どれだけの人を苦しめたんだ!」

クラピカが男の顔を殴る。
殉職したヴェーゼ達の無念を晴らすかのように。何度も何度も。



結局、11番の男の身柄はコミュニティーに引き渡されることとなった。


ナナミは最初から最後まで、まるで遠くの景色を眺めているかのようにぼんやりと見ていた。








一旦は解散したものの、深夜になって再びナナミは拘束された11番の男のところに来ていた。
クラピカは人と会う約束があるといって出掛けている。

ガスが効いていて動けないはずとはいえ、ドキドキと恐怖に緊張するのは止められない。
運が悪ければ死ぬかも知れないということをナナミはしようとしていた。

ガチャリとドアを開けて侵入する。
昔鍛えたピッキングの技が役に立った。

男は眠っていなかった。

「……こんばんは」

「なんだ。お前も殴りにきたのか」

「違うわよ」

ナナミは治癒の神に祈ってクラピカがやった顔の怪我を治していく。

「なんの真似だ」

「一応、あなたは捕虜だから……あなた、名前は?」

「……ウボォーギン」

「ウボォーギン、あなたにも仲間がいるなら分かるでしょう。仲間を殺された辛さや悲しみが」

「分からねぇな。オレの仲間は簡単に死ぬやつなんかいねぇ」

「……そっか。みんな強いのね。今頃きっとあなたを探しているのかしら……迎えが来ると良いわね」



ナナミは話しながら木曜日の噂話を発動させ、極小の念魚をウボォーギンの髪や着衣に潜ませる。

隠で見えなくしたそれは、気付かれることなく配置が完了したのだった。

 






くそぉぉおおーー!≠ニいう雄叫びが聞こえ、その声の大きさに念魚の半数ほどが消滅した。すごい破壊力だ。生き残った念魚は僅か。

わたしはリアルタイムで盗聴しながら身支度を整えていた。

「ナナミ! 旅団の男が逃げ出したわ!」

「わかってる! 仲間が迎えに来たのよ!」


リーダーが殺され、クラピカも不在で、仕切る者がいないのでナナミがパターンBの逃走ルートを提案した。
迅速な対応ができたおかげが、旅団に追いかける気がなかったからか、居場所を特定される前に逃げ切ることができた。



目的のホテルに到着し、ケータイで呼び出したクラピカが戻るのを待つ。

その間も盗聴を続けていたナナミは、ウボォーギンがクラピカに固執していることを知る。やはり傷を治したくらいでは怒りが収まらなかったらしい。ウボォーギンは自分をボコボコに殴ったクラピカと決着をつけると言い張っている。

「この場所が見つかるのも時間の問題かもね……」

ナナミが呟くとスクワラが反応する。

「どういうことだ?!」

「ハンター専用の情報サイトにはノストラード組のことが詳しく載っているの。所有物件のリストとか、護衛団の名前だって載ってた。それを旅団の誰かが調べたら? あっという間にこの物件に辿り着く……部屋を移った方がいいかも。少なくとも、最近入ったばかりのわたし達の名前は載ってないはずだがら、センリツかバショウかわたしの名前で部屋を取り直しましょう!」

わたし達が動き始めると、戻ってきたクラピカがそれに同意する。
彼はすでにサイトを確認したあとであり、ダルツォルネやトチーノ、スクワラたち古株の名前と顔写真は載っていたとのことだった。

(顔写真まで……)

情報サイトは日々更新されている。
お金さえ払えば、ライセンスのある誰でもが手に入れられる情報。便利だけど脅威でもある。



「で、これからどうする?」

「リーダーはたぶん死んだ」

「任務も遂行できてないし……」

「まずはボスに報告すべきだろう」

「ボスとは名ばかりのただのコドモだぜ?」

(バショウ、わたしも同じ19歳だよ? クラピカなんて18だし)

なんてことは言わないでおく。






地下競売が襲われ、その際に三名が殉職し、リーダーすら殺された可能性が高いことをボスであるネオンに報告するクラピカ。

「えー、じゃあミイラは?! 絶対に欲しかったのに!」

非情な言葉に部屋の気温が下がったような気がした。ネオンはどこまでもお子様だった。
そんなネオンに今後の方針を決められる筈もなく、父親と話すように言われるのだった。

 






一番の古株であるスクワラが固辞したことで、リーダーの代理がクラピカに決定する。年齢は一番若いけど、一番冷静で判断力があり強さもあるというのが選出の理由だろう。
わたしの愛するクラピカは凄いのだ。

ボスことネオンから本当のボスであるライト=ノストラードに紹介してもらい、クラピカが話しをする。
今後の方針を話し合った結果、クラピカは正式にリーダーの引継ぎを打診された。
これで組長の信頼を得るというクラピカの目標にまた一歩近づいたのである。


それとはまた別の意味で、ウボォーギンもクラピカに着々と近づいていた。やはり仲間内にライセンスを持つ者がいたのだ。
情報を得たウボォーギンは、ノストラード組の持つ物件をまわっては宿泊している組員を襲っている。もうすぐこのホテルにもやって来るのだろう。
そのことにクラピカも気付いている。


「クラピカ……行くの?」

「ああ。私は先程の部屋に残ってヤツを迎え撃つ」

「うん。分かってる。わたしの能力はサポート向きだけど、クラピカは一人で戦いたいんだよね……」

「すまない」

「行く前に加護を祈ってもいい?」

「いや、やめてほしい。本当の実力差が知りたい」

「そっか。じゃあせめて、御守りは外さないでね!」

「ああ。これはもう私のものだ」


クラピカはほんのり笑ってくれた。
御守りのリングがクラピカの心もちゃんと守ってくれることを願った。











「一人か……感心だな」

やって来たウボォーギンが話し出す。
わたしは未だにリアルタイム盗聴を続けていた。

「どこで死ぬ? 好きな所で殺してやるよ」

「人に迷惑がかからない荒野がいいな。お前の断末魔はうるさそうだ」




二人の死闘が始まろうとしていた。









「たまにこういう奴がいるからやめられねェ。殺しはな」
「オレの一番の喜びってヤツを教えてやろうか?」

先程からずっと聞くに堪えない台詞が続いていた。

クラピカが死んで償うように言うのも納得してしまうほどに、ウボォーギンは無慈悲で残酷だった。

(価値観が違う……分かり合えないよ、こんなの)




激しい戦闘音が響き、爆風に飛ばされたり消されたりして念魚が少しずつ減っていく。
それでも爆破音が拾えるうちはまだ良かったのだ。お互いに生きているのだから。

捕獲が完了し、クラピカの無事に安堵したのも束の間。
そのあとの尋問のほうが聞いていてずっと辛かった……クラピカの心からの叫びが耳にこびりついて離れない。




長いようで短かった拷問の音が終わり、最後のチャンスだとばかりにクラピカがジャッジメントチェーンなる鎖を突き刺して法を定める。守らなければ死んでしまうというものだ。

それでもウボォーギンは仲間について一切語らず、クラピカに向かって暴言を吐いて絶命した。

それからしばらく、スコップで穴を掘るような音が響いていた。クラピカが死体を埋めようとしているのだろう。


わたしは祈った。
死者を導く神に向かって、ウボォーギンが安らかに眠れるようにと。

これはクラピカに対する裏切りになるのだろうか。

わたしにはどうしても、死んでからも憎むことは出来ないようだった。
直接の被害者でないからこそ言えることなのだろうか。



今はただクラピカのことを労わりたい。

おかえりなさい≠ニ言って迎えたい。

心配で心配で、早く帰ってきてほしい。



わたしはクラピカの帰る場所になりたかった。








sideクラピカ




目の前に黒い光が降り注ぐ。

弔いの祈りだと直感的に理解した。

ナナミ……?

彼女は遠くからずっとオレ達を見ていたのだろうか。
人を殺したオレを見て、どんな気持ちでいるのだろうか。






死体の処理をしてホテルに戻ると、オレの部屋の方にナナミがいることが分かる。
もうだいぶ遅い時間になっているが、待っていてくれたのだろう。

ドアを開けて部屋に入っていくと、ホッとしたような顔のナナミと目が合った。

「おかえり、クラピカ」

「ああ。ただいま」

ナナミはおもむろに腕を広げる。
抱擁を求めているように見えた。

「いや、今は……先にシャワーを浴びてくる」

シャワーを浴びたところで、オレの汚れた手が消えるわけじゃない。

そんな穢れた身でナナミに触れても良いのだろうか。
そんなことが許されるのだろうか。

数秒ほど考え込んでいたオレにナナミが抱き付く。
逃げ出さないようにするためか、苦しいくらいに抱きしめられて、彼女の強引さに驚く。

「おかえり、クラピカ」

「ああ」

「よく、がんばったね。お疲れさま」

「……ああ」

「大好きだよ」

そう言って今度はクルタ語で話すナナミ。

『愛してるよ』

それは共通語で言われるよりも心に響くものだった。

変わらないのだと。
自分達は家族だと。

何があってもと、言われたような気がした。








「なんなら一緒にお風呂に入る?」

男女で風呂に入るなど聞いたことがない。
オレの婚約者は時々ズレていると思うのだった。

 



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