初任務


「じゃあ、じゃあ! その人とナナミはそれからずーっと一緒だったってこと?! それで今は付き合ってるの?!」

翌日、ヨークシン行きの飛行船に揺られながら、またもやわたしはネオン様の質問攻めに合っていた。

「付き合っているというか、婚約してますね。事実婚に近いらしいです」

「きゃー!! すごい、スピード結婚!」

確かに。言われてみれば、好きになったのはハンター試験の時だけど、両思いだと分かって付き合いだしたのはごく最近だ。
それでもう事実婚とか言っちゃってるのだから、超スピード結婚と言えるだろう。

(いや、事実婚は方便で、実際は婚約者止まりだから違うかな?)

「いいな〜! 私も恋人ほしー!!」

「ネオン様は立場上なかなか良い出会いがなさそうですもんね」

「そうなんだよー。どこを見ても厳つい男ばっかり。全然ネオンの好みじゃないんだもん!」

ブーブーと文句を言いながらも楽しそうに話すネオン様。
結局は同年代の友達(みたいな存在)と恋バナをしたかっただけなのだろうと察せられた。

「あ、でも今度来た新しい護衛の中には一人イケメンがいたよね! 金髪の!」

「クラピカのことですね。ちなみに彼は十八歳ですよ」

「なんだ歳下か〜。やっぱり付き合うなら歳上の方がいいよね〜」

ざんねーんと呟くネオンには悪いが、わたしは歳下に対する偏見はないつもりだ。実際、歳下の彼が婚約者なわけだし……そもそも彼は実年齢以上にシッカリしている。
わたしも前世の記憶がある関係上、精神年齢がアレなので、周りからは見た目より大人びて見えているはずだった。

「歳上が良いのなら、スクワラなんかはどうですか? かれもカッコいい部類の男ですよね?」

「えー、あの黒い人、ネオンは嫌〜い。全然気が利かないんだもん」

「でしたらクラピカはおすすめですね。彼は気遣いの人なので。歳も近いですし、ちょうど良いのでは?」

「うーん。でもちょっと神経質そうっていうか、怖そうじゃない? なんか細かいことで怒りそう」

「確かに少し神経質かもしれませんね。ハンター試験の時も、意外とどうでもいいことを気にしたりしてました」

「えっ、クラピカとナナミってハンター試験で一緒だったの?!」

「そうですよ。同期生です」

「じゃあ、じゃあ! ナナミの婚約者のこと、クラピカは知ってるんだ?!」

「知っているもなにも本人ですよ?」

「えぇーーー?! うそぉーー!!?」

 






急にネオンから解放されて、後方にある護衛団の席に戻る。

ネオンが自分の婚約者を他人に勧めるなんて理解できないと不貞腐れたのだ。
憧れている恋する乙女¢怩ニ、わたしが違いすぎたらしい。さもありなん。
今更わたしにキャピキャピした話し方や、モジモジしたような若々しい反応など出来るはずがないのである。


「戻りました」

「おう、お疲れさん。災難だったなぁボスに気に入られて」

バショウが肩を叩いてくる。

「災難だとは思いませんが、気に入りだったのは終わったようです」

「なんだ、お前もボスの不興を買ったのか?」

スクワラが仲間を見つけたと言いたそうにニヤついた。

「でもボスの心音はとても楽しそうよ?」

センリツが指摘する。
異様に耳の良い彼女(女性だった)が言うならそうなのだろう。

「うんざりしたように、わたしの話をこれ以上聞きたくないと言っていたのですが……」

「貴女の惚気話に飽きたんじゃないかしら? 貴女達って冷静そうに見えて、ずいぶんお熱いのねぇ」

センリツには会話まで丸聞こえだったようだ。
その上で揶揄っているのだろう。

「ふふっ、わたしは聞かれたことに対して事実を話しただけですよ」

「あらあら。ご馳走様」

クラピカは席を外しているのでヴェーゼの隣に座って話しかける。

「そのチラシは?」

「年に一度開催されるヨークシン・ドリームオークション。昨日一万で競り落とした物が、明日は一億で売れることもある一攫千金の夢の市――ですって」

「その一方で犯罪に関わる物だけを扱う闇のオークションも存在するらしいわ」

センリツが補足した。

「なるほど。そのヤバイ物目当てに雇われたのが俺様たちか……そーいえば金髪ボウヤはどこいった? 便所か?」

バショウが誰ともなしに問いかける。

「さて俺も 済ませておこう 大と小 荒野にトイレはなかりけり」

「字足らず?」

「詳しいのか?」

「季語がない それでもこれは 俳句なの?」

「おっ、上手いこと言うな。俳句だろうが短歌だろうが、自由に詠んでこそ風流だろ」

「わたし、俳句ってもっと美しいものだと思ってました」

バショウは言ってくれるねぇ≠ニ笑いながら去って行く。
トイレに向かったバショウと入れ替わるようにして、クラピカが戻ってくるのが分かった。
通信可能エリアにいたようだ。電話でもしていたのだろう。

 






「戻ったのだな、ナナミ」

「うん、今さっきね。クラピカは電話?」

クラピカの隣の席に移って座る。

「ああ、少しゴン達と話していた。ナナミのことも伝えておいたぞ」

「あっ、そういえばメール返信しそびれてた。ありがとうクラピカ」


もう間もなく飛行船が到着する。
薄闇の中に光る街並みは、そのアングラは、一体どんな所だろうか。




飛行船から車に乗り移るとき、ネオンのところに念魚を潜ませる。
ネオンは車内で父親のコネクションとなる顧客の占いをしていた。
詩の形態をとっているらしい。引き続き護衛も兼ねて見張らせる。







無事にホテルに到着すると、組長とのやり取りを終えたダルツォルネから次の任務の説明が始まった。
占いの結果から、ボスが競売に参加しないことになったのである。代わりにわたし達護衛団が目当ての物を競り落とす。

スクリーンに地下競売で競り落とす品物が映し出されていく。


「コルコ王女の全身ミイラ、俳優ソン・リマーチの使用済みティッシュ、クルタ族の眼球、通称緋の目。以上3つだ」


ドクンと心臓が早鐘を打つ。
緋の目があることを、クラピカはどんな気持ちで見ているのだろう。心配でたまらない気持ちになる。

護衛団の仕事に就くにあたり、面接の時からクラピカは黒いコンタクトレンズをするようになった。
緋の目がバレないようにするためだが、当分クラピカのあの優しい茶色の目が見られないのは淋しいと思う。
あの茶色い目が、今は怒りや憎しみで赤くなっているのだろうか。そう思うと切ない。


ダルツォルネは続ける。

「何者かが地下競売を襲うという情報が入った。いかなる不測の事態をも臨機応変に対処しろ。今夜の午後9時、セメタリービルでコルコ王女のミイラが競売に掛けられる。金に糸目はつけない。イワレンコフ、トチーノ、ヴェーゼ、 競売はお前達に任せる」

「リンセン、バショウは裏口側の監視。センリツ、クラピカは正面口側の監視だ。ボスの護衛には俺、スクワラ、ナナミがあたる。ナナミはあの盾の能力を使ってボスを必ず守り通せ」

「はい」

「それでは任務開始!」










sideクラピカ



人知れずナナミに呼び止められて話す。
先程ホテルに着くまでの間に得た情報を共有するためだった。

「例の情報源ってボスの占いみたい。オークションに参加する予定だった複数の顧客に死の預言がでてる」

「わかった。競売は必ず襲われるということだな」

「気をつけて」

「ああ。ナナミも油断するな」

こくりと頷きあって互いに覚悟を決める。
今日この日、さっそく嵐がやってくるのだ。

マフィアの取り仕切るオークションを狙うなど、相手は只者じゃない――幻影旅団の可能性がよぎった。







セメタリービルの正面口を向かいのビルの屋上から念入りに見張る。
今のところ異常は見られない。賊はどこから侵入するのだろうか。


「ずいぶん警戒するのね。ナナミからの伝言と関係しているのかしら」

「彼女の情報源は確かだ。不確かなことなら私には話さない」

「貴方達はとても強い絆で結ばれているみたい。信頼と相手を心配する気持ちが複雑に絡み合ってる音色だわ」

このセンリツという女性は、意外とおしゃべりなようだった。心音から見抜いてしまうので、嘘をつけないのも厄介だ。


「一つだけ聞いていいかしら。緋の目≠チてあなた達にとって何?」


オレは覚悟を決めて話すことにした。
目的のためなら手段は選ばない。


オレがクルタ族の生き残りであること、緋の目の特徴について話して聞かせる。もしもダルツォルネやネオンに話そうとするのなら、彼女を殺すことも厭わないつもりで。

だが、そんな覚悟をも見抜かれてしまう。
彼女は殺されたくないから黙っておくと返答した。

「緋の目を見た時のあなた達の心音は激しかったわ。だけど音色は違ってた……貴方が憎しみが強いのに対して、彼女は愛しみや心配が強かった。貴方のことを本当に愛しているのね。貴方の失った家族ごと」

「…………そうか」


ナナミにもらった指輪をはめた手を握る。彼女はオレに再び家族を与えてくれる。

もう二度と、家族や仲間を失いたくなかった。


 





ネオン様の護衛をしていると、リーダーのケータイが鳴り響く。
直感的に来た≠ニ思った。きっと賊が侵入したのだ。

電話での報告はクラピカからのようだった。
そして地下競売が襲われて、イワレンコフ、トチーノ、ヴェーゼの3人が殉職したと思われることが伝えられる。

競売品を奪われたマフィアは大変な怒りようらしく、すぐに賞金首がかかったのだろう。リーダーはこの機に賊を捉えてファミリーの貢献度を上げたいようだった。


「中央広場沿いの立体交差点でスクワラ達と合流し、犯人の捜索にあたれ!」

リーダーが電話を切ってこちらを見る。

「聞いたとおりだ。地下競売が襲われた。犯人は客と品物を奪って逃走中。お前達もクラピカ達と合流して犯人の捜索にあたれ!」


ネオン様の護衛をリーダーに任せ、わたしとスクワラは車に向かって走る。

「おまえ、運転はできるのか!?」

「(今世では)やった事ないけど出来ると思う!」

「は?! やったことねーのに出来るわけねーだろ!!?」

「わたし器用だから! でも道が分かんない!」

「使えねー!」


結局スクワラが運転する車にわたしは乗り込み、途中でクラピカとセンリツを拾って犯人の乗る気球を追いかける。
気球はゴルドー砂漠の方へ向かっていた。



そして砂漠の岩壁地帯に到着すると、そこには既に沢山のマフィアが集まっていた。

出遅れたわたし達は、そのまま遠方から様子を見ることにする。

「……様子がおかしい」

双眼鏡で見てみると、とんでもない光景が広がっていた。
群がるマフィアがたった一人の男によって紙クズのように屠られているのだ。見るも無惨な景色だった。

「強い……」

わたしが思わず呟くと、スクワラが焦ったように叫ぶ。

「強いなんてもんじゃねーぜ! ありゃ化け物だよ! 俺はあんなやつと戦うなんて無理だぜ?!」

同じように、他のメンバーも勝てる気がしないとこぼす。
相手の異常な強さに少なからず全員が動揺していた。

その時――

「一つ、心音が増えてるわ!」

「「「「「!」」」」」

すると地中からにゅるりと軟体生物のような裸の男が這い出してきて、わたし達に警告した。

「なるほど。お前たち、少々念が使えるようだが止めときな」

いつの間にか能力者が現れたことに警戒し、慌てて数メートル規模の円をする。
他にも3人もの人物が気配なく接近していた。
動揺していたとはいえ、全く気付かなかったことに焦る。








「あいつら、ただのコソ泥じゃない」

「殺しが生活の一部になってるな。いわば殺しのプロだな。うんうん」

「餅は餅屋」

音もなく現れた三人は、そうとうの使い手のようだった。

陰獣と名乗った彼らは、十老頭のお抱え実行部隊。
6大陸10地区をナワバリにしている大組織のそれぞれの長が、組織最強の武闘派を持ち寄って結成されたものらしい。


わたし達は彼らの戦いを見守った。

そして気付く。圧倒的な強さを誇る犯人グループのその大男は、背中に蜘蛛の刺青を入れていた。11の数字とともに。

(あれが幻影旅団……)

最初は陰獣の四人が優勢に見えたが、侮りが形勢を逆転させたように見えてからは早かった。次々と陰獣のメンバーが殺されていき、あっという間に全滅した。
相手の経験値が一枚上手だったのである。


先程からクラピカのオーラの総量が上がっている。完全に頭に血が上っているのだろう。
どうにか冷静に判断できるようにさせたいが、わたしにそれが出来るだろうか。

クラピカが一歩一歩と大男の方へ歩き出す。

スクワラがどこへ行くんだ!と叫ぶも、ろくに答えない。

「待て! 死に急ぐような真似はよせ!! ナナミも何か言ってやれよ! 止めなくていいのか?! 死ぬぞ?!」

「止める気はないけど……(冷静にはなって欲しいかな)」

「はぁ?! それでもアイツの女かよッ」



わたしは思い切ってクラピカに駆け寄ると抱きついてキスをした。

一瞬だけ抵抗があったものの、クラピカはすぐに応えてくれた。少しは頭が冷えたのだろう。

「……こういうやり方は止めて欲しいのだが」

「クラピカがわたしのこと忘れて突っ走って行こうとするから、仕方なく。……少しは冷静になった?」

「ああ、問題ない」

「わたしの力は作戦に入りそう?」



冷静になったクラピカは勝算はある≠ニ周りを説得し、リーダーにも連絡をして旅団員の一人を捕らえることに対する許可をとる。

作戦は、わたしが他の団員の邪魔が入らないように大男の周りに風の盾を張り、クラピカが対旅団用の鎖を使って大男を拘束する。

シンプルな作戦は成功し、わたし達は旅団の11番を捕らえることに成功した。

車の中で、捕らえられているにも関わらず太々しい態度の男にクラピカがキレたりする場面があったが、それは割愛する。


追手がないことを確認し、わたし達はリーダーの待つホテルへと向かったのだった。

 

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