9月3日@

翌日になってライト=ノストラードが到着すると、ネオンの帰宅が発表された。
今年の競売は諦めさせるらしい。その代わり欲しい物を何でも手に入れてあげるとネオンに約束していた。


ネオンが退室すると、改めてライト氏から指令がくだる。

「クラピカ以外の者達は今すぐネオンと侍女を連れて屋敷まで戻ってくれ。お前達も大男を拉致した時に顔を合わせているので、一応不自然でない程度の変装をするように」

「あの、クラピカは何を担当するのですか?」

「オークションは今夜開催される。場所と時間も同じだ。陰獣は全員殺された。競売品を運んでいた梟の遺体は回収できていないようだが、おそらく旅団に攫われたのだろう。陰獣が全滅したことで、十老頭は旅団の始末をプロに依頼した。これはコミュニティーに名を売るチャンスだ。クラピカには殺し屋のチームに参加してもらいたい」

「クラピカが殺し屋のチームに……」

「ああ。旅団を倒したクラピカなら殺し屋のチームと対等に渡り合えるだろう。やってくれるな、クラピカ?」

「……はい」







わたしとバショウとセンリツは、リンゴーン空港にて買い物するネオンの護衛……という名の荷物持ちを務める。

ネオンは金持ちのお嬢様育ちだからか高級品の買い物に一切の躊躇いがない。あれもこれもと欲しいものをどんどん積み上げていっていた。

(それにしても長い……)

わたしも買い物には(主に比較や取捨選択に)時間をかける方だけど、自分が何をいくつ買ったのかすら把握してないような豪快な買い物は初めてで、なんだか精神的に疲れてしまう。
いつになったら終わるのやら。



飛行船出発の時間が迫ってきて、空港の待合席でようやく一息をつく。

「買い物に付き合うだけで死にそうだ」

「同じく……」

バショウとセンリツもうんざりしているようだ。
そんな中、ネオンだけは元気で、侍女達と楽しそうに話している。

「あたしもトイレ行ってくるー!」

「なら、わたしも一緒に」

「えっ、いいよ。ナナミは荷物をみてて」

「じゃあその手荷物も預かるよ」

ネオンはわりと膨らんだバッグを肩にさげていた。トイレに行くには邪魔だろう。

「いいってば! ナナミはここで待ってて」

今日のわたしは変装のため年相応のラフな服を着ている。
ネオンと並ぶと同世代の友達にしか見えないとのことで、敬語を禁止にされていた。まるで友達ごっこである。気持ちは少し分かるけど。








「クラピカのヤツ、あのままで平気かね」

ネオンを待っている間、バショウが心配そうに呟いた。

「体の疲労はあたしの笛とナナミの加護でだいぶ回復したと思うんだけど」

センリツもクラピカを心配してくれている。彼女の笛を使った能力は、わたしの祈りと同じ癒し系な放出系のものだった。

「暗殺の話はどう思う?」

「心音を聞く限り、全てを納得した上で暗殺チームの合流に同意したわけじゃないわね」

センリツの推察は流石だ。
もちろんクラピカは、目的があってライト氏の指示に従ったのだ。

そのあとに続いたセンリツの言葉に、わたしはクラピカがセンリツに緋の目のことを話したことを察した。
信用できると判断したのだろうか。それとも嘘をついても見抜かれてしまうから?

どちらにしても、クラピカがまた一人仲間を増やしたようで嬉しかった。
大切なものが増えていけば、彼は悲願を達成したあともきっと生きていける。生きようとしてくれる。


「ダルい生き方だな……オレにゃ真似できん」

バショウが呟く。
彼はこの仕事が片付いたらそのお金で世界をバイクで周るらしかった。人生を楽しまないのは罪とまで言っている。

わたしも昔はそうだった。
自分が幸せに生きることしか考えてなかった。

でもクラピカ達と出会って、クラピカのことを好きになって、彼のことを幸せにしたいと願ってしまったのだ。
彼のやりたいことを手伝って、彼に何処までもついていく……そんな生き方が今のわたしの幸せだ。

いつか叶えたい目標もあるけれど、それはまだ先の話。今じゃない。


「……だが、遅いな」

「混んでるのかしら」

「ちょっとわたし見てくる」


トイレに入って見てみると中には誰もいなかった。
おまけにゴミ箱にはネオンの着ていた服が入っている。購入したものに着替えたのだろう。計画的犯行だった。

「ネオンは着替えて逃げたみたい! センリツはクラピカに連絡して! わたしは近くを探してくる!」


わたしはネオンに付けたままの念魚から情報を受け取り、まだそんなに遠くへ行ってないことを知って追いかけた。








「ネオン! ダメじゃない。一人でどこ行くの!?」

薄手のワンピース姿で歩いていたネオンの腕をつかんで足を止めさせる。
ネオンは驚いたように振り返った。

「ナナミ! だってパパが嘘ついて! 私をオークションに連れて行ってくれないから!」

どうやらボスがネオンにオークションが中止になっと嘘をついたのは逆効果だったようだ。

「だから、一人で行こうとしたの? 参加証もないのに?」

「参加証なんているの?」

「ねぇ、ネオン。行きたい気持ちは分かるけど、護衛を離しちゃダメよ。攫われたらどうするの? ネオンの占いの価値はみんなが知ってるんだよ?」

「じゃあナナミも着いてきてよ! それならいいでしょ?!」

「それは……命令違反になるから……」

「ねぇ、お願い! どうしても行きたいの! 連れてってくれたらナナミのお願いなんでも一つ叶えちゃう!」

「何でも……?」

「うん! 欲しいものがあったら何でも買ってあげるよ?!」

「……分かりました。でも、わたしが危険だと判断したら素直に従うこと。約束できる?」

「するする! 危険な場所にはぜったい行かない!」

(そもそも闇オークション自体が危険な場所なんだけどね)

緋の目を手に入れるため、わたしはネオンとの取り引きに応じることにしたのだった。




とはいえ。




「やっぱり参加証がないと無理だよ〜。ねぇ、ネオン? 諦めて帰ろう?」

「ヤダヤダ! ぜったい行くのーー! なんとかしてよナナミ!」


ハンターライセンス、はむしろ警戒されるだけだろう。マフィアに通用するとも思えない。今から参加証の手配なんて……やるとしたら盗むくらいしか――


「どうしたの?」

そう言って車の中から声をかけてきたのは若い男で。
およそマフィアに見えない爽やかな笑顔を浮かべていた。








「オーケーです。どうぞお通りください」

警察の言葉にネオンが車内ではしゃぐ。

「よかったー! 検問通れなくて困ってたの。ホントにありがとう!」

「どういたしまして。困った時はお互い様って言うしね」

(いや、普通のマフィアは言わないでしょ)


ネオンとわたしを拾ってくれた黒髪の男は、額に包帯を巻いていて、歳は二十代前半に見える。

男は検問を通れなくて困っていたわたし達に声をかけ、オレも同じオークションに行くから同乗すれば良いと提案したのだ。参加証を忘れたと思われたのだろうか。

見ず知らずの者からの提案にあっさりと飛び付くネオン。信用できないので申し訳ないから≠ニ言って断わろうとするわたし。どうせ一人で参加するのは退屈だと思っていたから、と押しの強い男。

(これは所謂ナンパなのだろうか……)

ネオンはすっかり打ち解けた様子で話し込んでいるが、わたしは不安しかなかった。
緋の目を手に入れるためとはいえ、旅団が再び来るかもしれないオークションに護衛対象のネオンと参加する。
よく考えなくても危険な行動だった。ボスはきっとこの判断を許さないだろう。






「競売品の下見までもまだ少し時間があるね。あっちで休んでようか」

すんなりとセメタリービル内に到着し、喫茶スペースで時間を潰す流れになった。
ネオンはイケメンの彼氏を欲しがっていたから、案外そのつもりで楽しく話しているのかもしれない。

コーヒーを飲みながら話すのはネオンのことばかり。男は未だに自己紹介すらなかった。それとも、そんな判断もできないくらい男もネオンに夢中なのだろうか。

(興味津々ってのは伝わってくるけど……)

「そういえば、占いが得意なんだってね。えーっと誰に聞いたんだっけかな」

「うん、得意だよ。えらい人にも頼まれるもん」

「どのくらい当たるの? 占い」

「百発百中なんだって!」

「なんだってって……君が占ってるんでしょ?」

「自動書記っていって、勝手に手が書いちゃうの」

「へぇ、すごいね! オレも占ってよ」

「いいよ!」

「ちょっとネオン!」

流石にそれは止めなければならないだろう。たぶん高額で取引しているわけだし。

「ナナミも占ってあげよっか?」

「そうじゃなくて。勝手に無料で引き受けちゃっていいの? お父様に怒られない?」

「平気だもん。パパはわたしに甘いから!」


(いや〜、占いに関することではどうだろう……)








「はい。二人とも、紙に自分のフルネーム、生年月日、血液型、書いて」

渡された紙を前に戸惑った。
生年月日が分からない。前世の、は流石に違うだろう……

「ナナミ?」

「わたしはいいや。なんか未来を知るのって怖いし」

嘘である。本当はめちゃくちゃ気になる。
けれど占えないのなら仕方がない。自分の未来だ、自分で切り開くしかないのだろう。




「クロロ=ルシルフル へぇ、26歳。けっこう歳上なんだ。それにしても変わった名前ね」

ネオンが渡された紙を読みあげる。

「仲間にはダンチョーって呼ばれてるけど」

「あはは、何それ。もっと変」


ネオンはそう言って占いを始めた。
わたしも見るのは初めてで、つい凝を使って見入っていたその時、クロロの目にもオーラが集まっていることに気付く。

(こいつ、念能力者だ! ヤバいかも!)

これほどまでに一般人を装うのが上手いのは、オーラの扱いが上手い相当な念能力者だということだ。
その上わたしが念能力者であることを知りながらスルーした。実力差が歴然だからこそ無頓着な可能性が高い。というか計り知れなくて力量が見抜けない。

幸い誘拐を企んでいるようには見えないが、なんとか離れる理由を探さなければならないだろう。

わたしがぐるぐるとこの後のオークションのことを考えている間に、ネオンは自分の占いについて説明していく。

「君は死後の世界ってあると思う?」

一つだけ、と言ってクロロがネオンに質問した。

「あたしはあんまり信じてない」

そう言って解説し始めたネオンの姿に、占いに関してはプロ意識のある子なのだと感心する。
ネオンの話したもしそういう表現があったなら慰められるのは霊じゃなくてあなたの方だと思うよ≠ノはわたしも感じるものがあった。

ウボォーギンを弔った時のことを思い出していた。
わたしは自分やクラピカを慰めたかったのかもしれない。





「オレはね、霊魂って信じてるんだ」

「わたしも」

思わず同意してしまった。
ずっと空気に徹していたわたしが喋ったことに、クロロは真面目な顔から面白がるような顔をした。

霊魂を信じるもなにも、存在することを知っている。
なにしろ2度目の人生なのだから。


「魂のままいつまで見守ってくれているかは分からないけど、輪廻転生はあると信じてる」

「うん。だからオレは死んだそいつが一番やりたがってたことをしてやろうと思ってね」



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