色彩の享受
混ざり合ってしまえばいい・・・

心も身体も、全て溶けてしまえばいいと思った。

このまま消えても構わないとさえ思えた。
彼女が共に在るのなら・・・
















目の前にいる小五郎さんは怖いくらいに綺麗だった。

こういうのを“妖艶”っていうのかな?

そんなことを考えながら、
いま、私は、小五郎さんとキスをしている。

なんでこんなことになってしまったのか…
そんな事はもうどうでも良かった。

いま分かるのは、
気付いたばかりの深い想いが通じて、より強い絆で結ばれたことと、
ついばむようなキスが優しくて幸せだってこと・・・

何もかも初めてなのに、不安なんてドコにもない。

だって私はこの人を愛してるから…
どんなことでも受入れられる。

なんて…根拠のない自信。

この確信めいた自信はいったい何処からくるのかな?

“愛”って不思議・・・

ずっと知らなかったのに、
味わった瞬間にコレだと分かるなんて。


今までのは嘘だったんだなって……
気が付いたの、子供の恋愛だったんだって……

それは少し淋しいような気もするけど、
全ては“愛”を知るために必要なステップだったのかもしれなくて……

“運命”だったのかもしれない。


だから、後悔なんてしない。
無駄な事だったなんて思わない。







「いま、何を考えているのかな?」


思考が顔に出てたのか、小五郎さんが私に問いかける。

私は、キスの最中に“愛”や“恋”について熟考してた、
なんてことが気恥ずかしくて……

少しだけ申し訳ない気持ちもあって……言葉に詰まった。


「こんな時くらいは私のことで頭を一杯にして欲しいのだけどね・・・」


心なしか拗ねたような言い草で……
相も変わらず艶めいた微笑をする彼に、
なんだか急にドキドキしてしまう。

彼もまた私を欲しているのが伝わってきて、
それが嬉しくてくすぐったくて、
幸せだなぁと心から思える。


『考えてますよ?』

『小五郎さんのことばっかり・・・どうしてそんなに綺麗なのかなぁとか、愛って不思議だなぁとか、あとは今までの恋愛は本物じゃなかったんだなって。私、きっと小五郎さんと出逢うために生まれて来たのかなって、そ…』


――そう、思ってました――


言い終わらない内に私の口は塞がれてしまった。










ちひろの口から“今までの恋愛”と聞いて、
今は己がちひろの慕わしい唯一であっても、無二ではないことが口惜しく……少々妬けた。


だがその後に続いた言葉で、
私の気持ちは更に高ぶってしまった。


生まれた理由、そして平和な世から動乱の世に迷い込んだ理由、

それが私だと……

私と出会う為に、私と連れ添うために、ちひろはここに居ると言うのか?



ならば・・・


もしそれが本当だとしたら、


私は、彼女のために在りたい・・・



藩も世も関係ない。

一人の人間として、
一人の男として、

私には只一人、ちひろが有ればよい。



だから私は、
彼女の全てを受けとめて、守ってやりたい。



―――いや、必ず守ってみせる。自分の力で―――










勢いに任せて彼女の唇を奪ってしまったが、
嫌がる様子は全くなくて…

むしろ応えてくれているようで嬉しかった。


しかしそれでは危険なのだ。

自身を抑える唯一の術を失っては、
私は止めどなく溢れる想いを欲望と共に彼女にぶつけてしまうだろう。



好きで、好きで、どうしようもない・・・



その想いに色欲を乗せて、
私は貪るように口吸いをしていた。


抱き締める腕に力を入れて、逃さないように。
項を辿って頭を手で支えて、離さないように。


温かく、しっとりと甘い彼女の口内を味わいながら探ってゆく。
彼女は容易く侵入を許し、あろう事か迎えてくれる。


――本当にこのままで良いのか?――


そんな迷いからの、私の打ちひしがれる想いは、
この快楽の前には無力だった。


こんな私は正常ではないのかもしれない。
頭が痺れているのはそのためか?


狂気のままに、享受に没頭する・・・

こんな自分を知らない。





止められなかったのは、
止めたくなかったから・・・





















どれくらいの時間が過ぎたのか・・・

次第に激しさを増してく口付けに、私も彼も息を乱し始めていた。


『っ…はぁ……っ…』


「……っ……ふぅ…」


ゆっくりと離れて、
静かに見つめ合った・・・


頬が少し熱くて、身体の芯が痺れてる……
でも不思議と鼓動は穏やかだった。


濡れた唇が生々しくて、なんだかスゴく恥ずかしい。


『…………』


「…………」


わたし・・・

彼の目に、今どう映っているのかな?











約束しよう。
必ず君を守ってみせる……

どんな時も。
私が君の盾になる……

この背中を頼ってくれるかい?


いつまでも、いつまでも……
共に歩みたいと願う。

この先の道がどれほど険しく困難なものになろうも、
君がいれば越えて行けるから……



だから誓って欲しい……

波乱の日々が落ち着いたら、私と……





「ちひろ、私と夫婦になってくれるかい?」




















どうしよう……

どうしよう、わたし……


ドキドキが止まらないよ。


――“めおと”って夫婦だよね?――


つまりは結婚の約束で……求婚は、プロポーズ……


“婚約しよう”ってことでいいんだよね?


頭の中で改めると、
ますます血が上る思いだった。


――うれしい…っ!嬉しいけど……――


『あの…、ホントに私なんかでいいんでしょうか……後悔しないと思います?』


自分で言っててちょっと悲しくなってくるけど、事実なだけに言わずにはいられなかった。
けど、もし素直に肯定されたりしたら…
ちょっと…いや、かなり凹むかも…


『私、桂さんのお役に立てるとは……到底思えなくて、正直不安です……』

「キミが、君であること……今のちひろが、そのままのちひろでいてくれることが、大事なんだ……」

「私は、貴女に……側に居て欲しいのです」

頬がカァーッと熱くなるのを感じた。

私は、恥ずかしくて照れくさくて……
視線を下にうようよと彷徨わせて、
コクリと頷くことしかできない。


――うん、でも……私も。
 今のままの小五郎さんが大好きで、愛してる。だから……――


『私も……ありのままの小五郎さんが好きです。いつまでも、そのままの“桂さん”でいてくださいね♪』


「・・・・・。それは……つまり、受諾と解釈しても?」


『はい!今後とも、宜しくお願い致します…』

私は深々と頭を下げた。

「そうか……よかった。うん、ありがとう。こちらこそ、末長く宜しく頼みたい」


ゆっくりと顔上げて……
見上げた先の小五郎さんは、
花のように佳麗な笑顔を綻ばせていた……

そんな顔を見せられてしまっては、
私まで釣られて笑ってしまうではないか。


「ふふふふっ……」

『えへへ……なんか照れますね』

「そうだね」

『桂さんも恥ずかしかったりするんですか?』

「……それはそうと、ちひろはなぜ私の名を呼んだり呼ばなかったりするのだろう……何か使い分けがあるのかい?」

『え、いや……無意識というか何となくというか……あの、たぶん・・・』


私はグッと手に力を込めて切り出した。


『実はですね…』

「うん?」

『“小五郎さん”と呼ぶのは意外と勇気のいることでして……ある程度の覚悟がないと、途中で恥ずかしくなって言えなくなっちゃって…勢いに任せて呼べる時と、そうじゃない時があるみたい…です。たった今、気が付いたことなんですけど……すいません』

「……なるほど、面白い癖だね」

『?…そうでしょうか』

「つまり……はっきりと呼べた今は、ある程度の覚悟が出来ている…と、そういうことになるね?」

『え?あ、はぃ……頑張ってみました!』

「それは偉いね」


そう言って小五郎さんがニコリと笑った。



なんだろう……

さっきまでの笑顔とか、
ほのぼのとした優しい空気とかが、
急に変わったような気がする……?





――それは、月の陰が垣間見えた瞬間――



群れ集まった雲に覆われて……

外から差し込む月明かりは、少しずつ翳(カゲ)っていった。







2010/11/24〜12/17
とりあえず完結(*^^*)


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