赤い実はじけた


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「――官長ッ! フェルディナンド様!」
 呼ばれた声にハッとなる。
 今、初めて彼女から名前を呼ばれた気がするのだが。
「もう、処理落ちしてないで話し合いの続きをしますよ。わたしは怒ってるんですからね!」
「ショリオチ……?」
「それは今はいいです。話を戻しますよ。新しい隠し子設定は分かりました。だけどその元ネタはわたしが見た夢の話ですよね? それでいくとわたしは何処の誰の子で、どなたの養子になるんですか?」
 そうだ。まずは彼女の誤解を解かねば。確かに不明な点は多いが、彼女が伯母上の娘である可能性はかなり高い。少なくとも、旧ベルケシュトックからフレーベルタークを経由したエーレンフェストまでの道中で、例の旅商人らが存在していたのは確かなのだから。まるきり架空の夢というわけではないのだ。
「君が信じたくない気持ちは分かるが……おそらく君は、旧ベルケシュトックに嫁いだ私の伯母――父上の姉にあたる人物の娘だと思われる。そして、父上と伯母上の兄であり、元騎士団長のボニファティウス様か、その息子であるカルステッドに引き取られることになるであろう」
「ユストクス様の案は却下になったわけですね、分かりました。神官長がそれで良いっていうならそうします。ですが一つ、これだけは確認させてもらいます……わたしと神官長は一応、婚約者同士なんですよね? 契約済みで、神様にも認められた仲なんですよね?」
「そうだが……?」
 私はそれよりも未だに話が通じていないことの方が気にかかるのだが。
「ということは将来的に夫婦になることは決定で、変更不可能。つまり、ほとんど家族同然の、夫婦同然ってことですよね?」
「は……?」
「それを踏まえて言わせてもらいますけれど! 夫婦に隠し事はなしですよ! 確かに今のわたしでは頼りないかもしれないですが、二人のことを勝手に決められては困ります! せめて事前に報告か、相談くらいはしてください……そうでなければ何のための家族ですか! それでは困った時に助けることも手伝うこともできないし、神官長一人だけが大変になってしまいます。そんなの夫婦とは呼べません! わたしは守られてばかりの妻にはなりたくありませんし、夫婦って対等な存在でしょう? それとも貴族の夫婦は違うのですか?」
「は? 君は、一体なにを……」
「わたしは身体は子供だし、体力だってありません。だけど、考えることはできますし、言い方は悪いけど人を使って助けてもらうことも得意です。だいたい神官長は、お仕事にしても何にしても、いつも一人で抱え込みすぎなんです! 誰かに弱みを見せるのが苦手なら、そういう時こそ妻を頼れば良いのです! 夫を助けて守るのも妻の役割なんですからね!」
「待ちなさい。話の論点がずれている……」
 一体この娘はなにを言っているのだ。
 君の血統の話をしているのではなかったのか。
 なぜ婚約者同士が夫婦同然で、家族同然ということになるのだ。
 夫を守るのは妻の役目?
 君が私を守るだと?

 このときの私はひどく混乱していた――

2023/04/02



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