思わず息を呑んだ。
「テ、テツ君…」
汚れた制服。ボロボロになった制服から微かに見える肌は、所々青くなっていた。
もともと白かった顔の色は青白くなっており、まるで病気の人のようだった。
キラキラ輝いて見えた瞳は暗く、何の感情もみられなかった。
何で。何で。何で。
その言葉だけが、グルグルと私の中で回る。
何で、テツ君がこんなことに…。
「…泣かないでください、桃井さん」
その声にはっとする。
今、私の頬を伝っているのは間違いなく涙だ。
そのことに、彼に言われるまで気がつかなかった。
「テツ君、何があったの」
「…」
「教えて」
「…桃井さんには関係ないです」
関係ない。
普段なら悲しいその言葉が、今はとても温かく感じる。
私の大好きな彼は、全く変わっていなかった。
いつもの。あの、アイスの当たり棒をくれた時と変わらず、彼は優しかった。
「テツ君。私ね、やっぱりテツ君が好き」
「…なんですか、藪から棒に」
「だって、テツ君が昔と変わらずに優しいままだったから」
「…」
「関係ないって私のために言ってくれてるんだよね。…テツ君の周りの状況が私を巻き込んで傷つけるかもしれないから、そうやって突き放してるんでしょ?」
「……僕の負けです」
そう言って彼は弱々しく微笑んだ。
その儚い雰囲気は私たちしかいない公園の静寂さに溶け込んで、本当に消えてしまいそうな錯覚を起こした。
「何から話したらいいんでしょうか、桃井さん」
「私に聞かないで!」
「…では、初めから。……僕は全てが始まったあの日」
の朝、まずはベッドから出て寝癖を直しました。が、なかなか直らず無駄に時間をかけてしまいました。最終手段として、父にワックスを無理矢理つけられそうになり逃げ回ったのも原因の1つでしょう。なんとか終わった後はご飯を食べました。今日の朝ご飯は食パンにピーナッツバターをぬったものと、オムレツとジャーマンポテトでした。それから制服に着替えて…。
「テツ君っ!!」
「はい?」
「そこまで詳しくなくていいからっ!原因だけ教えて!」
テツ君相変わらずミステリアス!
まさかその日の自分の行動全部教えてくれようとするなんて。
…ああっ!こんな時じゃなかったら止めなかったのにっ。
せっかくのテツ君の情報がぁ…。
「桃井さん?」
私の様子が違ったのに気がついたのだろうテツ君が声をかけてくる。
「何でもないよ」
そう言って笑顔を作る。
理由などいえるものか。大好きな人に変な人だとは絶対に思われたくない。
そんな思いで作った笑顔は、きっといつになく完璧だっただろう。
女の子は恋のためならいくらでも頑張れるのだ。
「テツ君」
「大丈夫です、ちゃんと言えますよ。僕がこうなった理由」
しんとした空気。どちらも何も言わずただ時間だけが過ぎていった。
口を開きかけては閉じの繰り返し。
微妙な空気がそこにはあった。
そして、その空気を壊したのは…
「テツとさつきじゃねーか。何やってんだ?」
まさに寝起きのような声をした、青い髪を持つ彼。
桃井が先程まで探していた青峰大輝の姿がそこにはあった。
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