epilogue


 まどろみの中で声がする。あなたでよかったって、本当にありがとうって、そんな声が。耳心地の良い響きは、懐かしい情景を目にしたときと同じような、懐古的な思いを起こさせる。

 戻れはしない切なさ。大切にしても霞んでいく記憶。でも、思い出は褪せない。そこにいたことは残っているはず。これからも残っていくはず。
 少し前まで忘れていたけど、もう、そんなふうにならないから。

 よろよろした気持ちでいると、空……現実にあるあの青い空じゃなくて、夢の中で「そういうものとされている」空から、きらきらしたものが降ってきた。ふわふわと降ってきた。

 ──あなたでよかった。本当にありがとう。

 声がまた、木霊する。
 何回も何回も、それで空間がいっぱいになるように、たくさんたくさん聞こえてきた。うるさくはなくて、むしろ、波の音みたいに自然な感じ……何だろう、似たような感覚、最近どこかで。



「ふ、ふえ、ふえくしゅっ」

 ふわあっと浮かび上がった真っ白な何かと、金色の糸の束。

「ふ、みゃ……?」
「ああ、目が覚めましたか」

 何だか、やけに近いところから声が……。

 っ!?

「ああ天使くん!?」
「はい。おはようございます、なつきさん」
「ち、ちち近……っ!?」
「地下? ここは地上ですよ、なつきさんの部屋です。……寝惚けて、いるんですか?」
「近いって言ったのー!」

 私の顔と、天使くんのかわいらしいお顔との距離がー!

 揺れた金色の糸の束は天使くんのやわらかそうな髪の毛だったらしくて、それは結構な近さ、多分30センチもないところできらきらしている。つまりね、それだけね、近いんだよね!

 起き上がりながら、天使くんを押し退けた。

「わわっ」

 小さな悲鳴と一緒に、ころーんと後ろに転がる天使くん。掛け布団越し、私の足の上に乗っかった何者か(もちろん天使くんなんだけど)を確認。

 腹立つくらい軽い。
 とか思っていると、目の前にふわふわっと、真っ白なものが舞ってきた。

 はしっ、と、真剣白刃取り的なポーズで、それを掴まえる。

「……羽根?」

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