episode.8


 どこか呆けたような天使くんが笑えるくらいかわいかったから、私は笑った。好きって伝えられただけで十分な気がした。ほんの少しでも何かが動いたっていうのなら、私。

 そう、十分だ。


「……天使くんは、私の守護テンシで、お隣りさんでしょ。もちろん、好きだよ。だから別に抱き付いてもいいってこと!」

 天使くんには笑っていてほしい。私の隣りでずっと、ずっと笑っていてほしいんだ。

 あのエンジェルスマイルは私のオアシス。日常とか環境が砂漠ってわけじゃないけど、あるのとないのとじゃあ、かなりの差があるからね!

 だから……私は天使くんと一緒にいたいから、この気持ちは押し込めて、昇華する。きっと、とっても綺麗な愛になる。

 小さいころから私を見守っていてくれた守護テンシ。恋を持たないあなたはやっぱり鈍いみたいだけど、私も相当だったよね。

 本当はずっと好きだったんだよ。

 初恋の人はあなただよ。


「……オレもなつきさんのこと、好きですよ」


 そう言って微笑んだ天使くんは、何にも知らないままでいい。そのまま気付かないで。

 私の嘘も。
 私の本当も。

 知らないままでいて。


 そっと顔を近付けてきた天使くんを優しくさけるために、私は彼を抱きしめた。勢い良く、ぎゅうっと、天使くんが何もできないように。さっきの言葉が嘘に聞こえないように。

 だって私は知ってるもの。
 テンシがヒトに行う、くちづけの意味。天使くんが今、そうしようとしたこと。

 私が隠したものを、そんなふうに暴かないでほしいから。


「天使くん、あったかーい」
「なつきさんも温かいです」
「ふふふー」


 私の恋心なんてひとかけらもわからなくていいよ。

 天使くんが私のお隣りさんでいてくれるなら、それで。



 

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