そうなるだろうとは思っていたが、彼は舌打ち一つを残して屋上から去ろうとした。
 上履きを引きずるようにして歩くと、コンクリートの地面と擦れてザリザリという音を立てる。飴玉の袋もガサガサと鳴った。

「!」
「わあっ」

 ガチャ、どす、うわ、という、何が起きたのか容易に想像の付く音が飛び、わたしたちはそちらへ目をやった。
 不良くんが顔を押さえてふらついている。校舎と屋上を繋ぐ外開きの扉が激突したのだろう。校舎の中にいた女の子が慌てて謝っていた。

 それから結局、不良くんと女の子は校舎へ入っていってしまった。あの感じからすると、不良くんが女の子の背中をぐいぐい押していたようにも思えるが。
 小枝と咲乃はどうか知らないが、わたしには彼の、面貸せ、という言葉が聞こえなかったわけではない。

「大丈夫かしらねえ?」

 咲乃が腕を組んで眉を曲げた。

「大丈夫だよ。詩歩くんだもん」

「何、その自信……それにさっきから、詩歩くん詩歩くんって、知り合いだったわけ?」

「やだな、咲乃。クラスメートじゃない」

 ええっ、と咲乃が驚いたのも無理はない。こんな短期間にクラスメートの名前と顔を合致させることは難しいだろう。
 そうだっけ、という視線を送られ、わたしは軽く頷いた。昨日までは知らなかった事実だが、まあ、いいだろう。

「ことりも知ってるのね。強い女は記憶力も良いのかしら。覚えておこうっと」

「それより早く食べよう? 昼休み終わっちゃうよ」

「誰のせいよ、もう」

「いただきまーす」

 屋上へ来てから、わたしの体感時間では十分ほど経ったところで、弁当の蓋は開けられた。
 薄々嫌な予感はしていたのだけれど──いや、予感と言うより予知だ。弁当袋を散々振り回していた小枝の弁当箱の中身は、無残としか表しようのない有様と化していた。

 弁当の中身が左右どちらかに寄るのならわかるが、小枝のものは、なんと中央に寄っている。

「け、傑作ね。こんなの見たことないわ」

「うわあ卵焼きが! おかずの上に散らばってる!」

 肩を揺らして笑いを堪える咲乃に構わず、小枝はその悲惨な状態のおかずたちを目の当たりにして愕然としていた。予測、できただろうに……。

「今日はせっかくお母さんが作ってくれたのにな。ショック」

 それでも気分を切り替えて弁当をつまむ彼女は、中身の形はどうであれ、うれしそうだった。

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