エスパーでないにしろ、分かるのだろうか。
 恋愛というものに聡いらしい彼女ではあるが、感情が読めない、分かりにくいと言われ続けてきたわたしの考えが、読めると?

「まず、ことりは小枝と渡辺が付き合ってると思ってるでしょ」

 ……いや。
 仲が良い人たちとして見てはいたが、そんなふうには、一度も。
 そもそも、咲乃さん、あなたのその予想には根拠があるんですか。先ほどのわたしの反応を、ご存じでない?

 応えずにいると、それを肯定と受け取ったのか、彼女はすらすらと続けた。

「やっぱり、そうよね。表面的にはそう見えても、事実ってのは違うのよ」

 言われてから想像してみた。
 小枝と前髪くんがそのような間柄であると仮定してみると、恋人同士に見えないこともなかった。もちろん、ああいう姿が、関わり方が、恋人同士のものであるという前提が必要とされるのだけど。

 しかし、咲乃は今、「普通に見たらそうだ」という主張をした上で、あっさりとそれを否定する意見を提示した。
 内面的には恋慕を持つ者同士ではないのだと、これは考え込むようなこともなかったから、前々から確信していた内容に違いない。

 妙な気分だった。
 わたしだけでは得られなかったはずの、関係についての可能性が、それを見出した本人によって、目の前で摘み採られたのだから。

「ううん。もしかしたらおんなじなのかも。でも、だからこそ厄介なのよ。あの人たちは」

 先ほどの明るさは何かにじわじわと押されて、咲乃は少し寂しそうだった。
 弁当袋を振り回しながらニット帽少年と談笑している小枝を遠目に、ふうと息を吐く。

「すごくイライラするのよね。不自然だもの」

 彼女には彼女だけの景色が見えているのだ。
 わたしがそれを見ようと努力しても、無意味で、到底できることではない。

「あーあ、お腹空いちゃった。小枝ー?」

 お弁当食べよう、と、フェンスにくっついていた小枝に呼び掛ける。彼女はすぐさま戻ってきた。
 持っていたピクニックシートを、離れた場所にいた不良くんの前でわざわざ広げる。

「ごめんね、シュウくんが面白くてついつい話し込んじゃった」
「八方美人」
「咲乃、それ、褒め言葉じゃないよ?」
「知ってるわよ」

「……」

 不良くんの目が鋭く細くなった。簡単に言うと、睨んできた。
 自分の領地に余所者が土足で踏み入ってきたような気でもしたのだろうか。
 やけにピンポイントな比喩をしたが、彼からはそういう類いの不愉快さが伝わってきたのだ。

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