見覚えのある飴玉の小袋が、両の手のひらで包むようにして彼女に抱かれている。これはあれだ。昨日、わたしが不良くんにもらった種類の飴玉。

 向こうにいた不良くんへ目をやると、左手であの飴の袋を掴み、右手では頭をガシガシ掻いていた。
 わたしに気が付くと、心底嫌そうな顔をする。

 咲乃はその飴の小袋をつまみ上げて、小枝を見下した。

「……あんたって子は、どこまでお子ちゃまなの」

「すぐに怒ったりする咲乃は、そんなことわたしに言えないよ?」

「小枝が喧嘩売ってくるからでしょ」

「じゃれてるだけ!」

 小枝と咲乃が一歩も引かない会話を続けていると、フェンスがガシャンと鳴る音が散った。

「なあ」

 三人して、声のしたほう──つまり、ニット帽の少年を見た。
 彼は中学校の屋上の隅ギリギリの位置に立ち、手だけはこちらの屋上周りに張り巡らされたフェンスへ掛けている。隣接しているだけあって、この二つの校舎の間はかなり狭い。一メートルから二メートルほどしかないため、そのフェンスに手を掛けることなど容易なことだ。

 それでも小枝は、フェンス越しの彼に駆け寄った。

「あなた体小さいから危ないよ!」

 少年の眉が片方、ぴくりと動いた。

「これでも身長は平均なんですけど」

 小さいと言われたのが心外だったようで、口調はひどく不満そうだ。
 小枝はきょとんとした様子で彼を見ている。

「それでもダメだよ。危ないものは危ないもの。戻って?」

「……」

 わたしと咲乃は完全に外野だった。
 少年は渋々中学校の屋上へ体を戻した。ぶすっとしている。小枝はニコニコしながら「いい子」と彼を褒めた。

「……あんた、名前は」

「小枝。中塚、小枝だよ。もうそんな危ないことしちゃダメだからね、シュウくん」

「!」

 ボッという音が聞こえそうな勢いで赤くなったシュウとやらは、またパクパク口を動かすと、力が抜けたようにうつむいた。

 咲乃の言った通りだ。
 あれはわたしでも分かるほどの反応である。

 無意識に眉を潜めた。

「あっ。あたし今、ことりの考えてること、ばっちり分かるわよ?」

 咲乃はエスパーだったのだろうか。いや、彼女は運動が好きな一般人であるはず。不思議に思って見上げると、そこには、自信に満ちた表情があって。それはとても咲乃らしい顔のように思えた。

「わたしの……考えて、いる、こと」

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