わたしも反射的に目をつむりそうになった。が、そのとき、タイミングが良いのか悪いのか──見てしまった、のだ。 生意気そうな男子中学生の暗い瞳が見開かれ、一瞬だけ光が差し込み、それがまた刹那的に揺れるのを。 ……なんだ? 吹き抜けた風は空へ消えていく。わたしは頭を振ってから手ぐしを使って髪を整えた。 小枝もぐしゃぐしゃになってしまった長い髪の毛を軽く直して、それを右手で耳に掛けた。 「今日は風が強いね」 朗らかに笑う。 わたしはそれに生返事をしたが、彼女は気にしていないようだった。くるりと背を向け、不良くんに尋ねる。 「あの子は? 友達?」 わたしは噂の男子中学生へ視線を注いでいた。もう目は合わない。彼はぼーっとしたまま虚空を見つめ、時折下を向き、口元を手のひらで覆っていた。何かを伝えたいのか、顔を上げて口を開くこと数回。彼は結局沈黙していた。 「ことり」 呼ばれた。咲乃だ。 「あの子、落ちたわね」 「落ちた?」 「うん。小枝って性格はアレだけど、可愛いでしょ。絶対そうよ」 ぽそぽそつぶやかれる。 「どうして分かるの」 「決まってるじゃん、女の勘よ」 どうしようもなく当てにならない理由だった。 「初恋よ、たぶん。でも、障害は多いわねー」 咲乃は続けた。 あの、ぼーっとしている様子だけでそうだと分かるものだろうか。シックスセンス、そんな馬鹿な。 「まず学校が違うでしょ。小枝に恋愛する気は、今のとこ無さそうだし。極め付けは渡辺ね。あれが一番厄介」 「前髪……、渡辺、晴一? どうして」 「どうしてもこうしても、幼なじみじゃない。世話焼きの。小枝のそばにいる男と言えば渡辺晴一なのよ、そうあっさりいくかしら」 腕を組んで、思案顔。 わたしに恋愛は分からない。咲乃には経験でもあるのか、知っているふうな表情だ。 ああ、彼女は確かイケメンくんのことを。 しかし、そのようには見えなかったわたしだ。鈍いという形容はしゃくだが、否定もできない。それに、たとえそうであれ、生活に支障はない。ならば、構う必要もない。 不良くんと何事か話していた小枝が、目をキラキラと輝かせてタカタカと走り寄ってくる。 「見て見て、二人とも! 飴もらっちゃった」 [しおりを挟む] ← |