答えに困って、もしくは小枝のように可愛らしい女の子に強く手を握られて焦って、小人くんはぱくぱくと口を動かした。小枝は小枝で、のんびり返事を待っている。思春期キラーですか、あなた。

 と、そこへ、珍妙な表情の咲乃が戻ってきた。不思議な光景に、はたと目を留める……が、驚いたのは彼女のほうではなく、小人くんのほうだった。

「ひじりんじゃん。なに、人見知りするとか言って、もう小枝と仲良くなったのね?」

 やあと気さくに片手を挙げた咲乃。どうやら知り合いだったらしいが、肝心の『ひじりん』は一人でてんやわんやしている。ぐるぐると目を回し、過呼吸になった金魚のように口を動かす。

「やや山江さん! ええっと、これは、そのっ」

 彼の焦点が揺れる。そして、不意に卒倒した──かと思いきや。

 ふらりと体勢を崩したあと、小人くんは絶妙なバランスを保ち、すんでのところで体を支え直した。
 小枝が手を握っていたとはいえ、これは。

 七人が、息を呑む。

「……極度の上がり症だって、限度があるっつーの」

 言いながら、額を自身の手で押さえ、緩慢な動きで辺りを見回した。

 わたしたち七人の中で、最も早く息を吹き返したのは、いまだに彼の手を握る小枝だった。

「び、っくりしたー。聖くん、平気?」

「違う」

 その次が、わたし。
 否定の言葉と共に、繋がれた手を無理やり振り解いてやった。小枝と彼の間に立ち、相手を睨む。彼はただ、きょとんとしていた。

 先ほどの、自信など欠片も持っていないような少年とはまるで別人だ。堂々とした雰囲気、態度で、身長も気にならないほど静かな覇気に満ちている。

「君は、だれ」

 こんな二面性、わたしは認めない。

「あー……椎野ことり、だっけ? わかる?」

 ぽけーっとしていた残りの五人がはっとする。簸川聖とは声質が異なっていたのだから当然だ。
 がしがし頭を掻いて、咲乃のほうを向く。

「すげーやつだな。けど、おい、咲乃。あとはお前が説明してくれ。おれは二日連続でするの面倒くさい」

 指名して、本人は教室から出て行こうとする。廊下の、咲乃とイケメンくんのやり取りに集まっていた注目は既にこちらへ向き、興味深そうに謎の簸川聖の背を追っていた。

「ちょっと、アキラ! どこ行くのよ!」

「護のとこ」

「無責任!」

「はあー? 俺は聖を寝かせなきゃなんねーんだよ。じゃーな」

「アキラ!」

 去っていく『アキラ』と途方に暮れる咲乃。じりじりと、彼女を囲むようにして、クラスメートが輪を描き始めた。そりゃあ、気になるだろう。昨日までは目立たなかった一生徒が、今日になって妙な豹変をしてみせたのだから。

「もう、何なのよ。ひじりんとは大違い……って、何この包囲網は」

「咲乃ー。あの子に頼まれたんだから、ちゃんと説明しなきゃだよ?」

 輪の中心部、いつの間に移動したのか、小枝のにやりとした顔が咲乃を詰問するように突き付けられた。

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