落ち着きを無くし始めたわたしに気が付いてか、そうでなく偶然のタイミングなのか、笑顔の小枝がトコトコと寄ってきて急に抱きついてきた。

「わたしはことりのことも大好きー」

「……え、あ、」

 返事の仕様が分からず、ただ戸惑っていると、頭の上に誰かの手が優しく置かれた。

「好かれてるなあ」

 渡辺パパさんのものだ。

 ……気恥ずかしい。
 そうは思ったが、小枝の行動に心を安んじていたわたしは、彼女から離れることができずに突っ立っているだけだった。頭に乗せられた手が引っ込められるか否かの間に響いたのは、

「うわー! 何してんだよハル!?」

 昨日、学校で最後に会った男子生徒の声と本鈴だった。



 そそくさと自分の席に戻る一同。それに遅れた前髪くんは葉山楓に捕まり、何やら言われていたが、わたしの気に留めるべき内容ではないだろう。

 それにしても、部活……か。残念なことに、入部は確か強制だったはずだ。むしろ入学条件くらいに考えても間違いはない。
 星上高校は目立つ学校ではないものの、控え目ながらも部活動に精を出し、地元の大会で三位や四位に収まっているところもある。

 運動は嫌いではないが、好きでもない。一応、後で小枝にでも聞いてみよう。

 朝のホームルームというやつが終わるや否や、バンという音を立てて、誰かの両手が机に乗せられた。しぶしぶ、ゆっくり視線をあげていくと、当然のように葉山楓と目が合う。

 彼はひどく真剣な面持ちをしていた。

「なあ、ことり」

 朝から面倒なやつに捕まったものだと、小さな溜め息を漏らす。

「あの」

 何故か歯切れの悪い少年は、うつむき加減で、ぷっつりと言葉を切った。

 嗚呼。
 分からない、本当に訳が分からない。まあ、分かろうという気もなかったが。

「……なに」

 らちが明かないので、先を促してやる。えらく真面目な顔だったので、一通りは聞く姿勢になったというのに。

「オレも、頭、撫でたい」

 仕様もない申し出と近距離から伸ばされた手を、鷹狩りの鷹よろしく打ち落としてやった。

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