祝いの言葉を述べるには早すぎるだろうと判断したわたしは、ぱちぱちと拍手を送った。

 そこで、ちょうど小枝と咲乃が教室に戻ってきた。あるクラスメートと共に。

「お前らさ……微笑ましいのは構わないけど、こいつら放し飼いにするなよ」

 へらへら笑っている小枝は、彼の背中に隠れ。唸る咲乃がそれを睨み付けて、悔しそうにしていた。壁役を買って出ていたのは、前髪くん。二人を(主に咲乃だと思われるが)なだめるのに苦労したのか、表情は明るくない。

 ため息を吐き、まずは背中に貼り付く小枝をはがして向き合った。

「確信犯だろ? 分かってるなら止めろって」

「確信犯? ……何が?」

「ああ、無自覚なんて。なおさら厄介だ……」

 とりあえず気を付けるんだぞと言い足して、いまいち分かっていないふうの小枝を放って今度は咲乃のほうを向く。彼女はジトッとした目で小枝を見ていた。

「おい、咲乃」

「何よ。今のはあたし、悪くないじゃない?」

「あのな、お前も大人になれって。あんなの無視だ。幸輔も笑ってたぞ」

「うっ……。こ、幸輔? マジですか?」

「マジだ」

 その、幸輔、という言葉が出た途端に、彼女の様子が一変した。

 隣りの沙夕里がクスクスと笑う。

「咲乃ちゃんってば、本当に正直者なんだから……」

「分かりやすい」

 癖毛くんもつぶやく。

 幸輔。
 どこかで聞いた名前だということは確かだ。だが、思い出せない。咲乃が苦手とする人物に違いない。

「咲乃は幸輔くんに弱いよね!」

 小枝さん、多分、それ、地雷。うなだれていた咲乃が、ゆらりと顔を上げる。

 前髪くんは、ふらりとその場を離れた。

「あいつら、あんなのでよく友達やってられるよな」

 嘆くような口振りでこちらにやってきて、疲れた顔で「おはよう」を言う。みんなでオハヨーと返した。
 また、教室から消える小枝と咲乃の二人組。

 喧嘩するほど仲が良い。
 そんなことわざが、頭をよぎった。

「ぼやきつつも、毎回の言い争いを収めようとする渡辺くんは、二人のお父さんみたいだね」

「パパさんー」

「止めてくれ……」

 前髪くんがげんなりしていた。

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