SIT:03


「おっはよーう!」

 朝から、まあ、元気の良いことで。

 登校して教室に入るや否や、談笑していた小枝、咲乃、沙夕里に囲まれて、にこにこ笑顔を向けられた。ちなみに、先ほどの元気いっぱいな挨拶は咲乃のものだ。

「おはよー、ことり!」
「おはようございます、ことりちゃん」

 あとの二人はこんな感じだった。

「おはよう……」

「ねえ、ことり! もう部活の入部届け出せる時期だけど、何部に入る?」

「え」

 入部届け。
 初耳だったわたしは、ゆっくり目をしばたき、

「……と、楽そうなやつにする」

 答えた。

「もっと具体的には?」

 詰め寄られ、小枝と沙夕里に助けを求める。どんな部活があるのかもよく知らないのだ、そう急かされても困る。
 二人は苦笑いして、咲乃の肩を叩いた。

「咲乃ちゃん、落ち着いてね。ことりちゃん、困ってるから」

「世話焼きも度が過ぎるとおせっかいだよ!」

 言うまでもなく、後者は小枝の発言だ。緊迫した気配を感じ取ってか、小枝はぴゅうっとその場を逃げ出した。咲乃が追う。

 いつもの光景、というやつなのだろうか。取り残されたわたしと沙夕里は、それを見送ってから会話を再開する。

 人の増え始めた教室で、ゆっくりとした時間を流そう。

「文字通り運動する運動部と、吹奏楽とか、そういう運動以外のことをする文化部があるけど、ことりちゃんは?」

「まだ……少し、考えたいかな。沙夕里は?」

「ああ、私はね──」

 すう、と沙夕里の顔に影ができた。彼女の背後に、見覚えのある男子生徒。

「沙夕里は生徒会に入るから、活動が週一くらいの部活に入るんですよー、椎野さん」

 がば、と彼女の首に腕を回して派手に抱き付いた彼……そう、沙夕里の彼氏さんは、ぼんやりした様子で言い放った。くるくるの髪の毛は天然パーマか、はたまた寝癖か。無気力そうに見えるが、発言に嘘はないのだろう。抱き付かれた当人が、先ほどと変わらぬ表情でうなずいたのだから。

「おはよう、沙夕里」
「おはよう、邑弥」

 ああ。
 放っておくべき恋人同士の図だ。顔の肌が触れ合うか触れ合わないか微妙な距離で、爽やかに朝の挨拶を交わした彼らを見ていられなくて、意図的に顔を逸らす。

 と、いうか。
 今さっき、邑弥とやらは何と言っただろうか。沙夕里が生徒会に、入る?

 そういえば、咲乃は沙夕里のことを「将来有望な生徒会役員になる」と豪語していた。彼女は早速、それになろうとしているのだろうか。まずは生徒会役員になり、そして、目指すは生徒会長……。
 ううむ。流石に、会長までは狙っていないだろう。

「夢はでっかく」

 へにゃへにゃ笑う癖毛くん。

「頑張るよっ」

 もう生徒会に入ったつもりなのか、沙夕里も笑顔で応えた。

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