仕方がないので、ぎりぎりまで待つことにした。タイミングを見計らって横に避けようと考えていたのだが、しかし。

「うわ!」

 思わぬところで石に蹴躓く不審者。阿呆。あんなスピードを出していたら、受け身を取ろうにもわたしたちのほうにまで被害がくるではないか。前髪くんは小枝をおぶっている。彼にぶつかったら一大事だ。この砂利道に手を付いたら、そう、とても痛いだろう。そんな思考を頭の隅で済ませる間もなく、運動神経に伝達された指示は至ってシンプル。

「っ!」

 足の裏で地面を蹴り、右手と左手を突き出す。

「ぐえっ」

 やつの肩辺りを押したつもりなのだが、如何せん、速さと重量に加えて重力というものがある。上から、まっすぐに落ちてきたそれを支えるには少し力が足りなかったようだ。尻餅を付いた感触と──ああ、確かに砂利は痛い。

「椎野さん!?」

 随分遠いところから投げられた声には応えがたい状況だった。重い、重いぞ、葉山楓。辛うじて上半身は立っているものの、やつを支えていた手は自分の身体を支えるために地に付いた状態だ。そして、当の本人は遠慮もなくわたしに乗っかっている。非常に好ましくない体勢なのだが、分かっていて退かないのだろうか、こいつ。厄介だ。変態に昇格です、おめでとう。

「お、も、い、っ」

 すぐそばにあった頭に頭突きを食らわせてやった。

 ごっ。鈍い音。

「い、だっ!?」

 額を押さえて離れたそいつを睨み付け、素早く立ち上がる。スカートに付いた汚れを払った。どんな展開だ、これは。まったく理解に苦しむ。

「あああああああ!」

 叫ばれた。
 不審者もとい変態は、せっかくわたしから離れたと思ったのに、その短い距離をコンマ何秒かで縮めてしまった。近い。気付かれない程度に顔を背ける。

「ごめんっ、ごめん、さっきのは、うん、オレが、ごめん! その、重かっただろうし、手……手から血が出てる大丈夫か、ことり! 水、水! 大変だ!」

 足を空に騒ぐとはこのことか、一人嘆息する。
 そりゃあ、地面に思い切り手を付いて少々滑ったら傷くらいできるだろう。とりあえず、文脈が意味不明なままわめくそいつを黙らせるために、指にあらんかぎりの力を込めて、デコピンを一発お見舞いしてやった。

「いだああっ!?」

 額に走った二度目の痛みに飛び上がった葉山楓を、手にくっついていた小石を取り除きつつ睨み上げる。

「ええと……っ、今のは、あれか。天誅?」

「わめくな」

 少し落ち着いたらしい少年に注意を投げ付ける。

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