手のひらには、確かに、細かい傷がたくさん付いていて入浴時に染みそうだ。しかし、同時に、これが何だと思った。きちんと処置をすれば、怪我にすら入らないものではないか。こんなものをいちいち怪我と呼んでいたら、わたしの場合は切りがない。

 それよりも。

「君は無傷だね」

 なおも狼狽えていた葉山楓の動きが、一瞬だけ、止まった。視界の端で黙って様子を見ていた前髪くんが「あ」という顔をする。

「ゴメンナサイは反省の言葉。もうしないように気を付けます。分かる?」

 謝っても繰り返すようでは意味がない。お母さんが苦笑いしながら教えてくれた。えらいね、ことり。お母さんは大丈夫だよ。何度も何度も謝るわたしを、そっと撫でてくれた。もういいんだよ、ことりは自分が悪かったって分かったんだもの。もうしないよね? だから謝ったんだよね?

 葉山楓がうなずく。

「それなら、いい」

 ──お母さんね、ありがとうって、言ってほしいなあ。そういうときは、ゴメンナサイよりも、アリガトウのほうがうれしいよ。

 今となっては、何故謝っていたのかも覚えてはいない。しかし、そのとき感じたのは、嫌われたのかな、それはいやだな、という不安だけだった。お母さんにはそれも分かっていたようで、また、優しく撫でられて抱きしめられたのだけれど。わたしは、一生あの人には適わないだろう。

 ぽかんとする葉山楓をそのままに、前髪くんの──正確には小枝のほうへ視線を移した。まだ、そこで眠っている。

「早く戻ろう」

 何とも言えないこの空気を打破する術を知らないわたしは、前髪くんを促してまた歩き出した。砂利だらけの道は途中でコンクリートに変わり、どちらで転んでも痛そうだと、思った。

- 27 -

*前]|[次#
しおりを挟む




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -