小枝は笑った。
 へにゃり、気の抜けるような笑顔でわたしを見上げてくるものだから、思わずドキリとした。間近で見た彼女は可愛いというよりも美人で、こんな顔だったろうかと考えさせられてしまう。同性にここまで思わせるとは、つわものだ。

 少し、距離を取った。

「あっち座ろっか!」

 その無邪気な雰囲気のおかげで、大和撫子とは思われないのだろう。しとやかだったのなら、もっと騒がれていたに違いない。ころころと表情の変わる小枝からは、そんな姿を想像することはできなかったけれども。

 あっち、と指差した先にはマットの山。軽やかに駆け出した少女のうしろ姿はあまりにも、

「……細い、なあ」

 ぴよんと飛び上がり、そこへダイブした。

「たあーっ!」

 ひらり、揺れる。

「……小枝さん、」

「なにー?」

 見えてます、額に手をついてうなだれれば、彼女は「ああ」なんて言って、また笑った。

「大丈夫だよ、女の子同士なんだからっ」

 ──本当に、彼女がしとやかな姿は想像できそうにない。マットに飛び込んだ状態から座り直して、けろっとした顔だ。ぽんぽんと隣りを叩いて、わたしにも座るよう促している。

「君が良くても、わたしがダメなの」

 ふうと息を吐きながら、そこに腰掛ける。女同士とはいえ、少しは人の目を気にしなさいと軽く睨んでやった。それを見た小枝は真顔で「ほんのお茶目です」と言ってから、微笑む。しかし、なおも表情を崩さないわたしに、今度は焦ったように問い掛けた。

「ひ、引いた?」

「何を」

「身とか……線とか、その他もろもろ気持ちとか」

 おろおろしている。
 わたしは不意に目を逸して微かに笑った。

「ううん」

「そ、そう? ほんと?」

「うん。気を付けてね」

 その『気を付けて』が何を注意しているのか分からないらしく、眉をひそめる少女。くるくる変わる表情は見ていて飽きないなあ、ぼんやりしていたら、欠伸が出そうになった。口を手で押さえて、くあ、ほんの少しの涙が視界を歪めた。数回まばたきをすると、それは直った。

 壁掛け時計の長針は180度ほど動き、既に30分経ったことを知らせる。

「一人じゃないっていいよねえ」

 いつの間にかマットに寝転がっていた小枝がつぶやいた。そちらへ顔を向ければ当然のように目が合う。

「最近、両親共働きって多いじゃない? わたし、まさにそれなんだよね。きょうだいもいないし」

 小さい頃から一人でさみしくて、と困った顔。

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