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 ついにやってきたぜ、月曜日、と騒ぐ7組生徒は、昼食を終え、五時間目の授業レクリエーションも無事にこなして……今、柔道部や剣道部の活動場所である武道場に来ていた。体育館ほど広くはないそこには、スペースの半分ほど畳が敷かれている。壁に掛けられた額縁にはでかでかと『切磋琢磨』の文字が飾られ、向かいにあったもう一つの額縁の中には『百戦錬磨』と味のある字で書き綴られた紙が入っていた。

「さあ、やるぞ、椎野!」

 いつの間にか柔道着に着替えていた担任の教師が叫んだ。体操服のわたしは畳の真ん中あたりまでゆっくりと歩いていく。そう、今日は志内振蔵もとい担任さんとわたしの決闘の日、なのだ。

 相手を見据えて、慎重に身構える。



 面倒なやつだった。
 連続で技を繰り出してくる勢いだけは認めるけど、型はわたし以上に荒いし何の武術をメインに闘っているのか分からない。彼に確認できないような不意打ちを下手にかましたら、受け身も取れないのではと一瞬心配した。

 しかし、相手をしているうちに、武闘家にそんな心配は必要ないのだと気付いた。まだ小さかったころ、師匠に教わったのだ。本気の相手に手加減は無用である、と。してはならない、邪道の行為だ。それに、手の抜き加減によっては普段より危険度が増し、怪我さえしてしまう。

 だから、わたしは伺っていた。相手に少しでも隙ができる瞬間と、観客の中に紛れた小枝がわたしから視線をそらす瞬間を。わたしにとっては、どちらも寸分の狂いなく一致しなければ『好機』とは呼べない。

 小枝が咲乃たちの話に夢中になり、わたしに背中を向けた。担任さんは開始当初の勢いがない。今だ、と運動神経に伝令が届く。

「おおっ!?」

 まず足払い。
 バランスを崩し、倒れ込むその勢いを利用してわたしは彼を一瞬だけふわりと宙に舞わせた。懐に飛び込み、背中に乗せて投げ飛ばす。柔道経験者には背負い投げの型をかなり崩したように見えたことだろう。


 ──だあんっ!

 畳が打たれる音を一つ、響き渡らせた。

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