SIT:02


 ……そこは温かかった。穏やかな空気、優しい日だまりに鳥のさえずり。そこにわたしはいなかったけれど、視界が広がるにつれて見えた場所には一つのベンチがあった。お腹の膨らんだ女性が座っている。妊婦だろうか。彼女は自身の腹を撫でて笑んだ。

 いつ、君に会えるかな。早く、君に会いたいな。

 画面が切り替わる。


 そのベンチには相変わらず女性が座っていた。変わったのは、彼女の隣りに背筋をしゃんと伸ばした男性がいたということ。彼は彼女と談笑していた。時々、肩を揺らしている。恐らく恋人同士なのだろう。
 男性が女性の腹を撫でて照れたように笑った。

 また、画面が変わる。


 ベンチに座る女性のそばにはベビーカー。中を覗きたいとも思ったが、わたしの視点は切り替えることができなかった。彼女はぼんやり空を見上げている。桜の花びらが舞っていた。

 やっと、会えたね。ずっと、待ってたんだよ。

 辺りが暗くなっていく。わたしの視界はフェードアウトしていった。


 ぱちり、電気を点けたように周りが明るくなった。ベンチに座るのは、あの男性と小さな女の子。二人は互いを突っ突くようにして遊びながら、笑う。仲の良い親子だと、思った。父親とはこういう存在なのだろうかと頭の隅で考える。

 ……こはる、びより。お母さんが言ってたよ。


 そこで、目が覚めた。
 薄明るい。掛け布団をもそもそと引っ張り、ぼんやりとした光を取り込む窓へ視線を投げた。壁掛け時計は午前3時を指している。

 布団の中でもぞもぞと寝返りを打ち、睡魔の誘いに乗って目を閉じた。

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