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 ちなみに言うと、星の丘での幸せジンクスは、「時計塔の下で告白して成功した二人は永遠に結ばれる」というものだった。星上高校に伝わる星上祭のジンクスには劣るが、信憑性は高いとのこと。
 わたし個人としては、ジンクスに信憑性が高いも低いもあるかと思うのだけれども、家庭部のあのぽわぽわした部長さんに笑顔で言われては相づちを打つしかなかったのだ。

 そういえば、この幸せジンクスに肯定的だったのが小枝一人だったため、わたしは少し驚いた。沙夕里はまだしも、咲乃の嫌そうな顔は予想に反していたのだ。その咲乃は「あたし、迷信とか信じないタイプなのよね」とばっさり言い切っていた。
 恋する乙女とやらは皆、恋愛成就系ジンクスに食い付くと思っていたのだが、そうでもないらしい。

 まあ、それはともかく。
 統計に基づく結論から言うと、フレッシャーズセミナーはおおよそ滞りなく済んだ。
 恥ずかしイベントを渋々終えた者や、自身が否定したジンクスに戸惑う者、泊まり掛けの学年行事をただ単に楽しんだ者。その他。上げるとその数は切りが無……いや、切りは生徒分くらいであるが、面倒なので切りが無いということにしておく。何にしろ、統計から見ると、この学年行事は問題なく済んだのだ。

 先に断っておくけれども、わたし個人にとっても、このイベントは難なく終わったに近いものだった。わたしも平凡な統計の側にある人間なのだ。
 わたしはわたしのいない時間や場所のことなど、もちろん、知るよしもない。だから、たとえ知っている人間相手であろうとも、その場を見たままに説明できるわけがない。

 星の丘でのフレッシャーズセミナーを終えた五月の中旬。
 高校に入学したばかりのわたしが見ていた景色は無くなっていた。



「ちょっと、どこから言えば、っていうかこれ、聞いたらやばい感じ?」

 わたしには共有できない気持ちだが、咲乃も大変だっただろうに、と言うことはできる。咲乃は沙夕里と癖毛くんの様子を見て、わたしと小枝と、彼らの間に視線を彷徨わせていた。

 始業のチャイムが鳴るまで十分を切ったあたり、それはそこにあった。

「一大事だねえ」
「そう、まさに一大事なのよ! ありえなくない!? 何よ、これ、夢!?」
「どうかなー」
「いひゃあ、ひょっ、いひゃい! ほっぺつねるなら自分のにしなさいよ!」
「咲乃が夢かどうか知りたいって言うから」

 小枝と咲乃の漫才はこの際放っておこう。

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