「葉山じゃないぞお、椎野の名前を書いたのは俺だー!」 背後から、自信と満足感に溢れた声を掛けられた。小枝と前髪くんはすぐさま振り向いたけれども、そのようなことをしなくてもわかる。 あなたでしたか、担任さん。 「志内先生!」 「ダメじゃないですか、勝手に」 小枝と前髪くんが二人で一文を述べる。 ワンテンポ遅れて渋々振り向くと、予想通りのしたり顔に呆れた。 「どうしてあんなことしたんですか」 「椎野には体育委員が似合うと思ってな!」 間髪入れないその答えはどうかと思う。 「何だ、他に入りたい委員会でもあったのか?」 なにゆえに「入りたい委員会がない」で話を進めるのだ。 「……特には、ないですけど」 「じゃあ問題ない! 体育委員も男女ペアだが、椎野なら大丈夫──おっ。早速もう一人が名乗り出たぞ」 ……。 「あっ、楓くんだ」 「そうくるような気はしてたけど、楓だな」 「運動できるもんね」 「いや、椎野さんを追い掛けてって話だよ」 「ああ! ことり、楓くんに好かれてるもんねー」 黒板を振り向く。もう勘弁してくれ! ここまでくると、「体育委員がやりたかったから選んだ」なんて思えなくなるぞ。蹴らないとは言ったものの、それを守り切れる自信がなくなってきた。 小枝と前髪くんもそれぞれ名前を書き、沙夕里は書かれた名前を数え、うなずいた。 「みんな書いてあるけど、星上祭実行委員とか、人数が多いところはじゃんけんしてくださいねー」 そこここでじゃんけんが始まる。誠に残念ながら、体育委員は人数ぴったりでそのようなことをする必要はなかった。 もういい、先日覚悟したではないか。なるようになれ。どうにかする。 葉山楓は嬉々とした表情でわたしの前にやってくると、ビシッと手を差し出した。 「よろしくー!」 「……」 わたしがなかなか同じことをしないので、一方的に手を取ってぶんぶん振った。 話によると、ほとんどの係は半年で終わるようだし。たったの六ヶ月、委員だからと言って顔を合わせる回数などたかが知れている。 そう考えてみると、ストーカー行為によって対面するほうが多いのかもしれない。 わたしはあの、ヘンテコなニコちゃんマークとは何の関係もないのに。 [しおりを挟む] ← |