「咲乃たちならさ、ほら、沙夕里ちゃんと仲良いじゃん? 何か聞いてないかなーって」

 当たり障りのない言葉で、わざとなのか、もしかしたら癖なのか、探りを入れるイケメンくん。

「聞いてない。っていうか、あたしたち、学校来たばっかだし」
「気になんないの?」
「なるわよ。なるけど」

 などと話しているうちに、始業のチャイムが鳴った。イケメンくんは爽やかな挨拶を一つ残して隣りの教室へ。わたしたちもそれぞれの席に着いた。



 しかし、結局。
 わたしたちが、沙夕里と癖毛くんがコンタクトを取るところを見ることはなかった。
 朝だけでなく、どの休憩時間も、昼休みも、清掃時間も、授業後も、二人が話している姿は見受けられなかったのだ。

 また明日、様子が変だったら聞いてみようよ。小枝はそう言って帰ってしまった。咲乃も微妙な表情をして頷き、部活動へ向かった。

 わたしはただ、荷物をゆっくりとスクールバッグに詰める沙夕里を見ていた。今日は家庭部の活動日だけれど、と、そこまで考えたときに、死んだように動かなかった癖毛くんが、ふらりと席を立つのが見えた。リュックを背負っている。

 沙夕里と目も合わさずに帰るつもりなのだろうか。

「ゆーうやー!」

 彼の名前を呼ぶ声が聞こえる。

「邑弥ー!」

 それは葉山楓の声で、彼は癖毛くんの元へ駆け寄っているところだった。その後に何を話しているのかは聞き取れなかったけれども、意識をそちらへ向けている最中、誰かが近付いてくるのに気が付いた。

 何のことはない、その誰かは沙夕里だった。

「ことりちゃんは帰らないの?」

 窺うような目。
 そんな目をわたしに向けて何を思っているのか、体に電気が走る程度の時間、考えた。

 彼女の目に映っているのはわたし一人ではない気がする。何故か。わたしをそんな目で見る理由が思い当たらないからだ。

 ぴん、と張った糸が、弾かれて揺れるような感覚。

「……違う」

 口をついて出た言葉に、沙夕里は困惑した。
 それは直感に近いものだ。直前まで考えていたことと関連があるのかと聞かれれば無いのだろうがしかし、口に出してみたらそれはすっきりとして、わたしの中の霧は晴れた。

 知らなければ、思い込ませたりしなければ、わたしは彼らをそのように認知することなどなかったはずなのだ。

 そう。

「沙夕里と広瀬くんはそういう関係じゃない」

 困惑は驚愕へ。

「……ことりちゃんには、そう、見えたんだね?」

 もちろんそれは、沙夕里が癖毛くんを好きでないことの証明にはならない。沙夕里が癖毛くんを嫌っているような雰囲気は微塵もなかった。

「そばにいるなら、いつでも味方でいられる」

 驚愕は涙腺をつついたらしかった。ふわっとした見た目の言葉がゆっくりと沈んでゆく。

「でも。そういうの、頼ってばっかりいられないじゃない?」

 少しうつむいた彼女はその後すぐに「変なこと言ってごめんね」と言い残し、教室から出ていった。

 その背中はたとえようもなかった。


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