意味深長な言葉だけがその場に転がっている。そばにいるとか味方とか、そんなような単語。
 わたしはそれらのワードを結び付けようとした。

 そばにいるなら、味方。
 沙夕里のそばにいるのは、いつも隣にいるのは、恋人である癖毛くん。癖毛くんは確かに、沙夕里の味方だ。
 けれども、沙夕里は、それを──。

 振り向けば癖毛くんと葉山楓、小人くんがこちらを見ていた。廊下側の磨りガラスを背に、その面持ちは各人それぞれだ。光が入り込まないほど落ちかけたまぶた、興味の表情、怯えからではない下がり眉。

「沙夕里。なにか、言ってた?」

 ぼそっと、ぎりぎり聞き取れるほどの声量に意識が向いたのは、癖毛くんのまぶたがふっと浅く持ち上がったからだ。

「邑弥、羽柴さんと別れちゃったみたいなんだよー!」

 清掃後、それなりに整えて並べられた机の間を縫って葉山楓がやってきた。
 教室に残っていた数人が彼の言葉に反応し、聞き耳を立てる態勢に入ったことがわかる。男子生徒が三名、女子生徒が五名。
 溶接されたかのようにべったりだった「有名カップル」が、週明けにはぽろっと剥がれていたのだ。分かたれた、いや、別れたと聞けばもちろん理由まで知りたいところなのだろう。
 まあそこはわたしも気になっているのだが。

 そんな空気を鋭敏に察知したような癖毛くんの表情が陰る。普段の眠たそうな、沙夕里に関係すること以外には役に立たない目の印象が変わる。

「別れてなんか」

 先ほどよりも随分大きな声だ。

「だ、だめだよ、かえで……そんなこと、言っちゃ……」

 葉山楓を追いかけてきた小人くんが困った顔で指摘をした。

「でもさ、そうだろ? 羽柴さんに別れようって言われてさ、今日は一回も話してないわけだし、」
「そうだけど……広瀬くん、理由、わからないって……」
「そこなんだよなー! な、ことり! 羽柴さん、何か言ってた?」
「だから、大声で話すことじゃ、なくて……」

 必死に何事か伝えようとする小人くんがいじらしかったので、わたしは葉山楓を黙らせることにした。なおも話し続ける彼を睨みながら、「黙れ」を突き刺す。
 なぜか、その隣りにいた小人くんが萎縮したように思う。君には言っていないんだけどな。

 とにかく、これまでに得た情報を整理すると、癖毛くんから沙夕里のそばを離れると言い出したわけではないことがわかった。実は、これは整理前にもわかっていたことなのだけれども。
 そうなるともちろん、あの不可思議な状況を生み出したのは沙夕里のほうであることが確定する。しかし、癖毛くんにはそうなる理由が思い付かない、と。

 あ、そういえば。

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