風恋
5話
憎しみに捉われていた頃には思いもよらなかった、いくつもの偶然の後押しによって、それまでひたすらに頑なだった己の心は、急激にその在処を変えていった。


憎しみを凌駕する程に、大切なもの。


心を通いあわせた仲間との絆。


その転機となったのは、朽木ルキア奪還だった。


たった四人(と一匹)の人間で、無謀としか言い様のない闘いを挑んだ。


(※四人とは一護雨竜チャド織姫+猫夜一。岩鷲は別ね)


その柱となった男。


死神代行、黒崎一護。


強大な敵を前にしても臆する事なく、己の信念を貫き通した、強い意志。


揺るぎない、誇り。


その生き様は鮮烈だった。


現世を遠く離れ、生まれて初めて死神の住まう世界と対峙した時、雨竜の胸に巣くった翳り。


困難に立ち向かう難しさ、戸惑い、恐怖――――。


そんな負の感情を一掃した、圧倒的な黒崎の存在感。


前へ、誰よりも速く前へ。


ただ前だけを見据えて全身全霊をかけ闘う姿勢は、まさに、皆の柱となり支えとなった。


涅との対戦で死の吐息を間近に感じた瞬間ですら、彼と共に闘えた事に誇りをいだいた程に。


それは強烈な憧憬となって、雨竜の心臓を鷲掴みにした。


相手が男である事に、戸惑いがなかったかと言えば嘘になるが。


それでも自分は彼が好きなのだと。


その事実を認めた。


けれど、それは自分の中だけで完結した、こっそりと秘めた想いだった。

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