憂愁の恋
8話
「……何だって?」


余りに唐突すぎた言葉に、一護は訳が分からない、と言った風に眉間を寄せた。


「どういう意味だ?」


一護の琥珀色の瞳が、不審気に歪められる。


それを感じて、雨竜は眼鏡のずれを直すふりをしながら視線を逸らした。


「…………君には分からない」


一護に聞かせるというよりは、それはどこか独白めいた呟きだった。


それ以上の詮索を拒絶する、にべもない言葉。


冷たい拒絶。


けれど声に微かに滲む、何かを堪えるような響きを、酷く辛そうに背けられた瞳を、一護は見逃さなかった。


「石田……」


「…………っ…」


雨竜は奥歯をギュッと噛み締める。


頼むから、そんな優しい声で囁かないでほしい。


気を抜けば、感情が溢れて、今にも吐露してしまいそうだった。


この胸に渦巻く――――恐怖を。


胸に根付いた、拭えぬ恐怖。


いつか必要とされなくなる恐怖。


全てを独占できない事への、狂おしいまでの嫉妬に身を焦がす恐怖。


好きだと言われた瞬間に生まれた喜びは、まだこんなにも胸に残っているのに。


何時しか生まれた失う恐怖に、心が雁字搦めになって、身動きが取れなくなってしまった。


そんな臆病で複雑な心情を、吐露するなど出来る訳もなく。


逆に余計に意固地になったよう、雨竜は身体を強張らせた。

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